次の日、棗君は軽音部には現れなくて、同じクラスの咲綺ちゃんが言うには学校にも来なかったらしい。
欠かさずに軽音部に来ていた棗君が連絡も無しに来ないというのは異様な事態であることを誰もが気付いていた。
馨君が携帯にもかけてみたけど、繋がらなかったようで首を振った。
「風邪とかじゃねぇの?」
「だったら、電話くらい出られるだろ」
珍しく馨君の方が苛立っている様子で、棗君の身に何かあったんじゃないかと心配しているようだ。
そう思うと、棗君と父親を2人にした私の判断が間違っていたんじゃないかと不安になり始めた。
あらゆるマイナスな妄想をし、鼓動が早くなり、指先から体温が奪われるようだった。
「佐伯さん?大丈夫?」
カズ君が声を掛けたことで、周りも私の異常に気付いて心配そうに覗き込んだ。
「ふたば、何か知ってるの?」
言ってもいいものなのか逡巡していると、馨君が近づいて来て私の両肩を掴んだ。
「お願い。何か知ってたら教えてほしい」
真っ直ぐに見つめる馨君から目を逸らすことができず、私は休みの日のことを皆に話した。
「何それ?あたし、初耳なんだけど」
咲綺ちゃんは棗君の母親が病死していることすら聞かせれていなかったらしい。カズ君もまた同様だ。
「軽音部を立ち上げる前だったからね。棗も進んでは話そうとしなかったし」
馨君はここにいる誰よりも棗君のことを知っているからか、状況が把握でき、落ち着きを既に取り戻していた。
「母親が死んだのも父親のせいだって言ってたからあまり話したくなかったんだと思う」
それは少しだけ感じ取ってはいた。
棗君が父親と対峙する姿からは黒い闇のような恨みが放たれている気がしたから。
「ギターを始めたきっかけも父親が煩い曲を嫌っていたらしくて反抗心で始めたとか言ってたし」
「バンド仲間を集め出したのも反抗心からってこと?」
「それは、俺が提案した。母親が亡くなって落ち込んでたけど、ギターを弾いていると時は心が安定していたみたいだから」
当時の棗君にとって、軽音部は支えみたいなものだったんじゃないかと思った。
私が軽音部を居場所としているように、棗君もこの場所を拠り所として精神を保って来ていたのかもしれない。
「棗にとっては、いいタイミングなのかもしれない」
「どうして?」
「これから軽音部に頼らず生きて行く為には」

