これから自分のクラスとなる教室の前で立ち止まり、深呼吸を一つ。

教室の敷居が酷く高い存在に感じられる。


意を決して中に入ると、去年のように既にいくつかのグループが出来上がっている。


前の私だったら、こんな光景を見ても、どうってことなかったのに今は異様に苦しい。

喉がカラカラに乾いていくのを感じながら、自分の席を探す。


去年は咲綺ちゃんがここで話しかけてくれたなぁ・・・。


思い出に浸っていると、肩をちょんちょん、と指で叩かれ、振り向くと笑顔のカズ君がそこにいた。


「よっ」


「カーズーくーん」

カズ君から後光が見え、神のように思えた。自然と詰め寄りかけて、ふと思い出す。


あのバレンタインデーの出来事を。


出しかけた手を空中で彷徨わせ、ぴたりと止まった私を不審に思ったのか、カズ君は首を傾げた。


「どうした?」

「え・・・、えっと・・・よ、よろしくね!」

自然とは思えない話の方向転換。

自分のボキャブラリーの無さに溜息が出る。


結局、棗君や馨君も理数系を選択していた為、同じクラスになることはなかった。

知り合いがいたことは私にとって何よりも救い、なんだけど・・・。


私のことを好きだと言ってくれたカズ君。

あれからカズ君の接し方が特に変わったわけでも無く、切り出すきっかけも無く、返事を先延ばしにしていた。


気まずい・・・すごーく、気まずい。