カノン



棗君から練習用のTAB譜を受け取ると早速それを見ながら弾いてみる。

TAB譜は普通の楽譜のように音符ではなく、弦を押さえる位置を数字で現したもので、読み方がわかってしまえば私のような初心者にはわかりやすい楽譜だ。


「え、これ、棗が持ってきたの?」

TAB譜を指差しながら大きな瞳を更に大きくする咲綺ちゃん。

頷くと「えー!」と声を出して驚きのリアクションをする。

「棗が人の為に動くとは。何したの?ふたば」

あの横柄な態度といい、この言われようといい、一体棗君ってどんな立場の人なんだろう、と疑問に思う。

何処かの国の王子とか言われた方が納得がいく。


「何もしてないよ」

「昨日、棗しかいなかったんでしょ?」

「うん。棗君が何でもいいから弾けって言うから弾いたらダメ出しすごいされて・・・でも、最後に少し褒められた!」

「嘘!?棗が褒めたの!?」

前に乗り出してきた咲綺ちゃんに向かって慌てて否定する。

「あ、棗君には褒めたわけじゃないって言われたから私が勝手に思ってるだけだけど」

「なんて言われたの?」

「筋は悪くないって」

咲綺ちゃんは「最上級だね」と感心したように頷いた。

「棗は捻くれてるから上手に褒めたりできなくてそういう言い方になっちゃうんだけど、棗にとってはすごい褒め言葉なはずだよ!」

「おい。誰が捻くれてるって?」

「あ・・・」

振り返ると鬼の形相をした棗君が腕組みをして立っていた。

「自惚れんなっつったろ!黙って練習しとけ、葉っぱ!!」

「ふたばです!!」

棗君には私の名前を覚える気がないようで、葉っぱという大きなくくりで私を呼ぶことを定着させつつあるので抵抗するのに必死だ。