体育館の片隅で膝を抱え込んだ状態の私は目の前の光景をぼんやりと眺めていた。
バスケットボールが床を叩く度に私の体に鈍い振動が伝わってくる。
方向転換の際に鳴る靴の高い音は心地良い程度に耳に響く。
弾む声、床を叩く音、靴が鳴る音。
異なる種類の音が噛み合う瞬間は心が弾む。
ただ、その中に私が作る音がいつも無いことを口惜しく思う。
「あ、ごめーん!」
クラスメイトの投げたボールは誰の手にもパスされることなく、大暴騰。
そのボールはラインを越えてバウンドしながら私の掌に治まった。
「平気、平気」と後ろに手を挙げながら駆け寄ってくるクラスメイトに持っていたボールを差し出した。
「ごめん。指、怪我しなかった?」
バスケの試合をリードしていた彼女はボールを受け取りながらも目線は私の両手にあった。
「大丈夫だよ」
「あー、よかった。佐伯さん、怪我させたら大変だもん」
至って明るい口調で答えると、安堵の息を吐いたクラスメイトは再び、音の中に加わって行った。
ボールを持ったくらいで怪我するもんか。
10本の指を見下ろしながら唇を噛んだ。
相手チームの女子がボールを持ってラインの外から投げようとした時、授業の終わりを告げるホイッスルが鳴り響いた。
やっと、退屈で苦痛な時間から解放される。
一時間も固い床に座っていたせいで、お尻が痛い。
駆け足で列に加わると、四方から汗の匂いが漂ってきた。
疲れたね、暑いね、と感想を言い合う声を流しながら全員が集まるのを待つ。
今日1日の授業が終わるチャイムが鳴ると、生徒達は笑顔で出口に向かい出す。
私は賑やかな列から1人、離れて涼しい顔で体育館を出た。