高校に入って3度目の春が訪れた。

毎年咲くこの桜並木がこんなに鮮やかな桃色をしているなんて知らなかった。

俯いてばかりいた私は、なんて損なことをしていたんだろう、と悔やんだ。



玄関前の掲示板に張られた部員募集のポスターを視界の端に追いやることも無く、2人で登校してくる女子を見て羨ましがることも無い。


「おはよう、ふたば」

振り返ると、小走りで駆けて来る咲綺ちゃんの姿。

最早これが日常になっているんだから、去年1年分の色濃さを示していた。



「え!?咲綺ちゃん理数系クラスなの!?」

3年生のクラス分けには生徒の希望を元に、理数系と文系の2種類からクラス編成を決定する。

学校側が進学などを配慮したそんな制度によって、不穏が訪れようとは思いもしなかった。


「うん。暗記とかコツコツやるのって苦手で。あたし、実は理科は案外好きだし」

数学や物理に拒否反応を起こしていた咲綺ちゃんには訊かずとも文系クラスを希望すると思っていた。


そうすれば、同じクラスになる確率が高くなる。

だけど、そもそもの専攻科目が違えば確率はゼロ。

色濃い1年だったと言っても頼りの綱は軽音部にしかない。一気にクラス替えの恐怖と不安で押し潰されそう。


今すぐ帰りたい。


「ちゃんと訊いておけば良かったー・・・」

「同じ階なんだし、いつでも会えるじゃん。ふたばのクラスに遊びに行くし、こっちにもおいでよ」

「うぅー・・・、ありがとう、咲綺ちゃん」


泣きそうになりながらお礼を言うと、咲綺ちゃんは笑いながら頭をポンポン、として「じゃ、また放課後ね」と教室へ入って行くのを名残惜しく見送った。