何の会話で繋げたらいいのか、思案していると頼んでいた品がテーブルに並べられた。
それが、この落ち込んだような雰囲気を打破するきっかけとなった。
「・・・比嘉から貰ったんだけどさ」
咲綺ちゃんは背もたれと背中の間に挟んでいたリュックを漁り出す。
「いい感じに比嘉の話が終わったのにぶり返さすなよ、お前」
ナイフとフォークを手にしたカズ君は眉根を寄せて嫌悪感を露わにした。
「結構いい話なんだから聞いてよ。はい、これ」
折りたたまれた紙を広げてテーブルに出すと、それを咲綺ちゃん以外の全員が覗き込んだ。
「ロックフェス・・・?夏フェスとかそういう?」
一早くチラシの内容を理解した馨君が皆の気持ちを代弁して確認をとった。
「そう。運営は市が主体で市内の活性化を目的にしたフェスだからよく言う夏フェスの規模には及ばないけどね。野外フェスだから近い物は味わえるかもしれない」
咲綺ちゃんが広げたチラシには『出演者募集!!』と大文字が打たれ、その後ろには舞台の上にスタンドマイクやドラムが置かれ、更に後ろに青空が広がっている。
「まぁ、今回もレッド・キャッスルはオファーがあっての出演で、あたし達は自分でエントリーして審査受けなきゃいけないんだけどね」
「へぇ、面白いじゃん」
棗君は早速乗り気になって、細かい募集事項の方にも視線を向けている。
「でしょう?条件は市内でバンド活動をやってれば誰でもいいみたいだし。ライブしたくてうずうずしてるでしょう?」」
ライブハウスで初めて出会った観客との一体感をまた感じることができるかもしれない、と思ったら自然と気持ちが弾んだ。
「オファーした出演バンド数が決まってからの一般募集なんだけど、今から準備しておくのは悪くないと思う」
「比嘉君なりの罪滅ぼしのつもりかな」
「どうだか。逆に見せつけたいだけかもよ」
「なるほどな」
全てを読み終えたのか、棗君は咲綺ちゃんの言葉の真意を見抜いて頷き、それを見て咲綺ちゃんは不敵に笑った。
「ステージが2つできるらしいんだけど、オファーを受けたバンドっていうのが真ん中の大きいステージでやって、自分からエントリーしてきたのは小さいステージでやるの」
「人気のバンドの方が大きいステージってこと?」
「そう」
「何だよ、それ。そっちに客が行くのは目に見えてるじゃねぇか」
カズ君が舌打ちしながら言った言葉で、咲綺ちゃんの「見せつけたいだけ」という言葉の意味を理解した。
「逆に考えると、あいつらと直接対決できるってことだろ?」
「正解」
咲綺ちゃんと棗君が2人して顔を見合わせて笑みを浮かべている様子は少し異様。
この2人がやる気を見せたら、もう止まらないことはこれまでの経験上理解している。
2人の戦闘態勢が徐々に馨君に、カズ君に伝染する。

