カノン




今回のレッド・キャッスルの曲は前回のようにボーカルのソロからしっとりする曲調では無く、いきなり全員が楽器を掻き鳴らす、アップテンポ。


身構えていたけど、やっぱり圧倒されて、体の自由を全て奪われた気がした。


観客が手を振り回すように天へ掲げるのも、飛び跳ねて地面を揺らすのも、全て、レッド・キャッスルが奏でる音に操られている。


そして、咲綺ちゃんが大きく息を吸い込み、壁を打ち抜くような勢いで声を発する。


こんなに激しく鳴らされる音の中で貫くように私の耳に、脳に、心に届く。


さっきまで不貞腐れていたなんて思えない。

今は、純粋に歌を唄うことを楽しんで、私達、観客に訴えかける。


息をすることも瞬きすることも、無意識で行っていた動作を全て忘れてしまう。


魅了されたレッド・キャッスルの演奏すら霞ませてしまうような咲綺ちゃんの存在感。


舞台から咲綺ちゃんの姿はそう遠くない。さっきまでは隣で会話をしていた人。


なのに、咲綺ちゃんが遠く、遥か彼方から唄っているような気がしてならなかった。