「こんにちは、レッド・キャッスルです」
比嘉さんはマイクに向かって男にしては高い声で名乗る。
「その子誰ー?」
どこからか飛んできた質問に、予期していたんだろう、にっこりと笑みを浮かべるのはいつもの貼り付けたような営業用スマイル。
「交通機関の影響で、間に合わなくなってしまったので急遽、助っ人で入ってもらいました。カノンのボーカル、咲綺さんです」
紹介されると咲綺ちゃんは小さく礼をしただけ。
いつものハイテンションはどこへ行ったのか、大人しくマイクの後ろに立っている。
「結構、不貞腐れてるね、あれは」
「え・・・?そうなの?確かに元気ないけど」
「まぁ、客前だから一応、ね。でも、あそこに立ってるのは本意じゃなさそうだ」
馨君はこの状態が咲綺ちゃんにとっても予期できなかったことだと解釈して安心したような笑顔。
「じゃあ、無理矢理やらされてるってことかよ?」
「そうだろうね」
「汚ねぇ手、遣いやがったな、比嘉の野郎」
比嘉さんを睨み付けるカズ君は唇を噛んで、拳を握りしめてやっとの思いで怒りを留めているようだ。
こちらも一応、客前は意識しているようでホッとする。
「まぁ、それは後で訊くとして。興味ない?」
「何が」
「レッド・キャッスルと咲綺のコラボ」
「お前、そっち側かよ!?」
「そういう意味じゃなくて。単純に興味が湧かない?他のバンドと咲綺の組み合わせ。客観的に咲綺の歌を聴くってないしね」
馨君の言うことに私は納得してしまった。
咲綺ちゃんの歌声にはいつも驚かされているけれど、それは演奏者側からしか味わったことが無い。
聴かされる側ってどんな気持ちなんだろう、と興味が湧いてくる。
初めて咲綺ちゃんの歌声を聞いた、1年前。
あの時の様に、一瞬で魅了されて、忘れられなくなってしまうんだろうか。

