カノン




次はいよいよ鳳、レッド・キャッスル。心成しか、会場がざわついている。



「咲綺ちゃんがどこかへ行ったっきり帰って来ないの」

カズ君にそう伝えると、それで初めて咲綺ちゃんがいないことに気づいたらしく、首を傾げた。

「便所じゃねぇの?」

「2つ目のバンドあたりから帰って来てない」

「腹下して、とか・・・」

「えぇ!?次、レッド・キャッスルなのに・・・」


今日の軽音部の活動のメインは敵陣へ乗り込み、視察すること。次を見なくて何の意味があるのか。


「私、ちょっとトイレ覗いてくる」

「うん、任せ・・・、ちょっ、待って、あれ!」


列を抜けようとすると、慌てたカズ君に止められた。

カズ君が指差した舞台に視線を送ると、何故か咲綺ちゃんがマイクの前でスタンバイしている。


「えっ!?どういうこと!?」

咲綺ちゃんの後ろに同じくスタンバイしているのは比嘉さん含め、紛れもなくレッド・キャッスルのメンバー。


「まさか、新しいメンバーでーすって発表じゃねぇだろうな!?」

「そんなの、あるわけないだろ」


大混乱の一角を無視して、舞台上ではレッド・キャッスルのメンバーがそれぞれ定位置に着く。

もちろん、比嘉さんもギターを抱えるが、動揺したような表情は一切無い。


咲綺ちゃんがいることは異常なことではない・・・?

それってどういう意味・・・?


観客も知らないボーカルを前にしてざわついている。

「誰?」

「新しい子?」

「あー、最近のギターとボーカルの不仲説って本当だったんだ」

「へぇ、綺麗な子」


様々な方向から聞こえてくる声で情報を得ながら必死に理解しようと試みる。

比嘉さんとボーカルが不仲って・・・・。

だから咲綺ちゃんを仲間に入れたかったってこと?

それじゃあ、本当にこれは・・・。