カノン




逡巡しているうちに会場が暗くなった。自然と周りも静かになり、それを合図に舞台上に人影の気配を感じ取る。


目が慣れてきて、舞台上の5人がそれぞれ動いているのを確認できる。

人影が一定の位置で静止し、簡単に音を出した後、合図と共にギターとドラムが同時に演奏を始め、舞台が一気に照らされる。


名前も知らないインディーズバンド。だけど、彼らは難しいテクニックを多彩に取り入れ、かつ正確。

でも、どこか感じるのは、独りよがりな演奏だということ。


ピアノの演奏でもそういうのを感じる時はたまにあった。

自分のことしか考えていなくて、観客は置いてきぼり。技術はすごいけど、何も伝わらないから共感できない。


ピアノを弾いてた時の私って観客のことなんて何も考えてなかった。


母の評価を気にして、審査員の顔色を窺ってピアノを弾いていた私ってこういう演奏をしてたのかな。

見ている人に何も伝わらない演奏だったんだろうな、私のピアノって。


一方通行な言葉に何の意味も無いことと同じで、音楽だって一方通行じゃ意味が無い。

音楽と言葉って似てると今は思う。


文化祭の時に、私は母に自分の気持ちを伝えた。

けど、路上ライブの時に棗君が引き留めた中学生のことを思い出すと、知らない誰かが救われる音を届けることに憧れる。

私の奏でる音で誰かが救われるような、そんな演奏を私はしたい。




2つ目のバンドが演奏を終えようとしていた時、咲綺ちゃんの横に誰かが近づいてきたのを気配で感じた。

咲綺ちゃんは苛立った感じだったけど、何を喋っているのか周りの音が大きすぎて聞こえない。


咲綺ちゃんは振り向いて顔の前で手刀を切り、列を離れて行った。


何だろう・・・?トイレかな。


単純にそう思ったけど、咲綺ちゃんは次のバンドが終わっても、その次が終わっても帰って来なかった。