「葉っぱ」
こうやって呼ぶのは棗君しかいない。
そう呼ばれることにもう何の抵抗も無く、顔を上げてしまう。
返事をしようとする前に、腕を引っ張られ、私と棗君の居場所を交換させられた。
交換した場所は私の身長でもちょうど前の人の間から舞台を見ることができる位置。
ちらり、と棗君を盗み見て、にやけた口を手で必死に抑え込んだ。
「佐伯さん、俺と代わってくんない?」
「え?」
「俺、香水の匂い苦手」
「うん、いいけど」
「わり」
棗君と触れていた肩が名残惜しいけど、カズ君と位置を変わる。
「隣に来んなよ」
「俺が隣じゃご不満ですか?」
「うぜぇのが隣にいると更にうぜぇ・・・」
「このやろッ!俺だって好きで隣に来たんじゃねぇよ!」
「じゃあ、何で来たんだよ!」
「並び的に偶然そうなったんだろ!」
既に周りの観客は迷惑そう。それに気付いていないのか、この狭さも関係無しに掴み掛りそうな勢いだ。
隣から溜め息が漏れると、「ちょっと、ごめんね」と私の後ろを通り、棗君とカズ君の間に馨君が入る。
「何これ。むさすぎ・・・」
馨君がげんなり、と溜息を吐く。
「勝手に入って来て文句言うんじゃねぇよ!」
「勝手に喧嘩始めようとするからだろ?俺だって四方を男に囲まれたくなかったよ」
声が聞こえたのか、馨君の前の人が睨むように振り返ると、得意の万人受け笑顔で「どーも」とやり過ごした。

