部室の入り口に異様な光景が広がっている。私は目を見張り、隣の咲綺ちゃんに状況説明を目で訴える。
「今年も来たか・・・」
咲綺ちゃんは溜息を吐いて入口に群がる女子生徒に向かって歩き出した。
「はいはい、どいてどいて。馨は今日ここには来ないから無駄よ。わかったら、練習の邪魔だから散ってくれるー?」
掻き分けながら女子集団の中を突き進み、咲綺ちゃんが作ってくれた道を私が続く。
文句を言ってる女子もいたけど、それを無視して、ピシャリ、とドアを閉めた。
「みんな馨君に用があるの?」
「そう。バレンタインデーの昨日は休みだったから、今日チョコをあげようと殺到したわけ。まぁ、馨の方は先手を打ったけど」
「それが今日来ない理由?」
「そう。どうせ断れないし捨てれもしないから全部食べようとするの。去年は朝昼晩チョコ食べて、ニキビだらけになって悩んでたかな」
・・・そこまでしなくても。
馨君の優しすぎる心も度が過ぎると自分の身を滅ぼすことになるんじゃないかと本気で心配してしまう。
馨君にも辛い過去があったから、その反動なのかな、とも勘ぐってしまう。
「やっと散ったか」
眉根を寄せながらやって来た棗君。どこからか窺っていたのか、タイミングの良い登場だ。
「あたしに散らせて、棗は様子を窺ってたわけー?」
「あんな集団見たらビビるだろ、普通」
棗君でも苦手な物はあるんだな、とほくそ笑む。
口を尖らせる咲綺ちゃんを余所に、棗君はベースを抱えて練習を始めた。

