カズ君の分のチケットは誰にも渡さず、咲綺ちゃんが保管している。
「急に俺も行く!ってなり兼ねないしね」と笑っていた咲綺ちゃんの言葉通りとなった。
カズ君は私にマイクを差し出した。
「折角だから唄う?初めての記念に」
「私、あんまり曲知らないから・・・」
「じゃあ、俺が入れてやるよ。誰でも唄えて、佐伯さんっぽい歌」
そう言って小型のテレビみたいなタッチパネルをペンで操作する。
私っぽい歌ってどんなだろう・・・。
流れてきた音楽は確かに私も知っている歌だ。
でも・・・
「兎と亀が私っぽいってどういうこと!?亀みたいにトロイって意味!?」
「怒んなって。亀ってゆっくりだけど確実にゴールまで向かうだろ。最終的には兎に勝つんだから、いいじゃん」
カズ君はマイクを突き出してきたけど、受け取らなかった。
「唄わない!唄ったら、カズ君笑いそう!」
「笑わねぇから、ほら」
そう言いつつ、笑ってるから説得力も何も無い。
「自分は亀の方だって自覚してる辺りも面白いよね」
「カズ君の馬鹿ッ!」
「兎と亀」のBGMが終わるまで、私とカズ君の攻防は続けられた。

