カノン




連れて来られたのはカラオケ店。「楽器練習で」と受付に伝えると小さなバインダーに挟まれた紙を渡される。


「何、飲む?」

「飲み物もいいの?」

「飲み放題にしたから」

「そんなのあるんだ・・・。すごいね」

「カラオケに来るの初めてなの?」


頷くと、カズ君に笑われた。

「すっげー。カラオケに行ったことない人初めて見たー。天然記念物だよ、佐伯さん」

「馬鹿にしてるでしょう!?」

「いや、ごめん。レア過ぎてさ」

人を珍獣のように!!


オレンジジュースを入れてもらい、2階の角部屋に入る。

大きな液晶テレビが真正面にあり、小さい部屋を圧迫していたが、内装は綺麗でソファもしっかりしていて、驚いた。


「初めてなら、何か唄う?俺、その間に弦変えちゃうから」

「え!?弦、自分で変えられるの!?」

「棗にやってもらうの癪だし。店に頼むと高くつくからさ」


ちょっと前まではできなかったのに・・・。


負けず嫌いなカズ君が悔しい、と思うとそれがものすごい行動力になる。

持ち前の覚えの早さで難なく習得し、私をいつも驚かせる。


と、同時に私のいつまでたっても変わらない受け身体制が恥ずかしい。

ギターのテクニックだって、自分で調べることなく、棗君に教えてもらうことが多い。


ただ、その前のテクニックが習得できていない状態で別のことをやろうとすると棗君に「まだ早い!」と怒鳴られるので自粛しているところはあるけど。



「見てる。私も自分でできるようにならなきゃ」

「マジ?俺、そんな手際良くないよ」

「ううん。平気。見てる」


カズ君はそう言ったものの、私の目には弦を変えるカズ君の手は素早くて、時間も然程かからなかったように見えた。