カノン



「まさか、アンプに繋ぐことも知らねぇの?」

「し、知ってるよ、それくらいは!」

「あっそ。じゃあ、繋げば?」

「いや、アンプから音出すほどいい音じゃないし・・・」

「アンプに繋がないと本当の音がわかんねぇだろ」

立ち上がった棗君は木琴の下にあった横が30センチくらいある黒いアンプを私の前に置いた。

アンプの後ろからコードを取り出し、ギターとアンプを繋ぎ、摘みをいじる。


「音出してみろよ」

適当にコードを弾いてみるとすかさず遠慮の無い棗君の指摘が入る。


「まあまあ。いらねぇ音出てる。人差し指でちゃんと使わねぇ弦全部ミュートしろ」

人差し指を寝かせ、出す音以外の弦は優しく触れるようにするとさっきとは違った音がアンプから流れた。

「それ、忘れんな。次、C」

慌ててコードCを抑えると、また次のコードを要求された。



「なんか曲弾けんの?」

「ゆっくりだったら」

「それ弾け。昨日聴き忘れた」

棗君は椅子にどかっと座ると足を組み、腕を胸の前で組んだ。

全てを見透かすような目で私を見上げる。

ゆっくりなら弾ける、と言った言葉を撤回したい。

棗君一人に対して弾くだけなのに、緊張で指が震える。



深呼吸をして弦を抑え、ピックを持つ指に力を込める。

スターリンクのデビュー曲は中学の時に何度も弾いた。

ただ、最初の速弾きはできないから前奏は飛ばして歌が入るところから。

ソロの部分は難しいが、それ以外は簡単なコードで弾けるから、と教えてもらった。

明るい音の印象を受けるストラトキャスター。

何度も聴いたエドのギターとは似ても似つかない音色だけど。


棗君には聞き苦しい音になっているかもしれない。それでも、弾き始めたら止まらなくなった。

棗君に下手くそ、と呆れられても構わない。

必死にコードを追いかけ、徐々にメロディになっていくことが嬉しくて、楽しくて。

いつの間にかベースやドラムの音さえ聞こえてくる。


完全に自分の世界へと入り込んで行った。