ぐるぐるに巻いたマフラーに口元を埋め、もすうぐ日を跨ぐ時間にも関わらず、切れ間の無い人の波を眺めていた。
もうすぐ年明け。
初詣をしよう、と咲綺ちゃんと約束し、家を出たが張り切り過ぎて待ち合わせ時間には少し早かった。
深夜に出て行く娘に「初詣だけよ」と釘を刺した母。
初めて夜中に外出する娘の行動に戸惑っている風だったが、見送ってくれた。
前の母だったら話を聞いてもらえる前に「そんな時間にとんでもない!」と怒鳴ったに違いない。
徐々に変わりつつあるお互いに、お互いが戸惑いながらも、小さな歩幅で進んでいる。
それを感じ取れるから、胸の辺りが暖かくなる。
「夜なのに、こんなに人がいるんだね」
「あと10分で年明けだからね」
咲綺ちゃんと合流し、先頭が見えない程に並ぶ参拝の列の最後に着く。
煌々とする灯りに、湯気を吐き出すテント。
なんだかお祭りみたいだ。
「丹波さん?」
私も一緒に視線を向けると、ダッフルコートのポケットに手を突っ込んだ比嘉さんが白い息を吐き、口元を持ち上げる。
「げっ」
「奇遇だね。家、この辺なの?」
「何よ。あんたは1人?年の最後に寂しい奴ね」
咲綺ちゃんは嫌味を言ったつもりだろうけど、比嘉さんは全く動じていない様子。
「前でツレが並んでる。僕は甘酒が欲しくなってね」
「あぁ、そう」
「ドラムやってる奴だよ。紹介したいな」
「だから、あたしにその気は無いって言ってるでしょ!?しつこい男は嫌われるわよ!?」
「マメな男じゃなきゃ、女子は落とせないと思うけど?」
「・・・あんた、それ本気で言ってるならぶっ飛ばすわよ」
キザな台詞に身震いをしながらも右手には拳が握られている。
それに動じることなく、貼り付けたような笑顔を作った比嘉さんは財布から何かを取り出して差し出した。
「どうせ別の機会って言ったって会ってくれないだろうから、ちょうどいい」
「何よ、これ」
「3月にライブやるんだ。カノンのメンバーで来てよ」
「何でよ」
「純粋に僕達のライブを見て欲しくて。きっと最高のライブになる。後悔はさせないよ」
どこから湧き上がってくる自信なのか、口説き文句のような言葉を吐き、笑顔は崩さない。
「いらない」
「何か企んでると思ってる?」
構えた咲綺ちゃんの行動を肯定と取り、小さく声を出して笑い、私の方にチケットを押し付けた。

