ブツブツ言いながらも棗君が約束通りにカズ君の弦を変え終わったくらいに咲綺ちゃんと馨君は早々に帰宅した。
「咲綺が抜けないで良かったよなー」
「ほんとだね。咲綺ちゃんが抜けたら寂しいよ」
「じゃなくって、カノンの為に」
「ん?」
「だって、咲綺で持ってるようなもんだろ?」
棗君の方を窺ったが、聞こえなかったかのように白いレスポールの弦を切っていく。
「何」
「いや、何でも・・・」
私の考えすぎかな。
棗君が咲綺ちゃんに対して高評価なのは知っているけど、同時に劣等感を感じているんだと思っていた。
今だに読めないことが多いんだよなぁ、棗君って。
「でも比嘉さん、諦めてなかったっぽいよね」
「咲綺が欲しくなる比嘉の気持ちもわからんでもねぇけど」
「も、もしかして、カズ君って咲綺ちゃんのこと・・・」
「何でそうなる。咲綺の歌とか存在っての?そういうのって意味。ブラックホールみたいじゃね?咲綺って」
「え・・・?宇宙の、あれ?」
「そう、あれ。人がさ、全部咲綺に吸い込まれていくみたいに咲綺の周りに集まってくんだよ。いつか飲まれるんじゃねぇかな、俺達も」
カズ君は遠くに視線を向けながら、ぼんやりと言った。
咲綺ちゃんに引き寄せられる気持ちはわかる。
咲綺ちゃんの周りにはいつも誰かがいて、いつでも咲綺ちゃんがその中心だ。
ブラックホールの吸引力は一理あるとしても、全てを無にするそれとは違う。
いつも眩しい咲綺ちゃんを求め、集まって行く様子は教科書で見た太陽系惑星のよう。
1番大きな存在。太陽みたいだ。
「もう少しまともな例えはねぇのかよ」
心の中を読まれたのかと思ってどきり、としたがそれはカズ君に向けられた言葉だ。

