カノン



「ごめん、ふたば。あたし、昨日の騒ぎがバレて職員室に呼び出されてるんだ。だから、先に行ってて」

「え、ちょ、ちょっと待っ」

「ごめんね!」

口を挟む隙もなく、咲綺ちゃんは廊下を走り去って行ってしまった。

部活初日は当然咲綺ちゃんと一緒に行くものだと思っていたから突然の計算違いに動揺する。

仕方がなく、ゆっくりとした歩調で音楽室へ向かう。

このゆっくり歩いている間に馨君が先に来てくれていればいい。



そう願ったのも虚しく、音楽準備室には棗君の姿のみ。

このままドアを閉めてしまおうか。

「何突っ立ってんだよ、早く閉めろ」

「あ、うん」

一瞬の躊躇の間に棗君に睨みつけられた。

ドアを閉めると静まり返って更に気まずい。

居場所の少ない音楽準備室ではどこに居たって居心地が悪い。


棗君は気にも留めていないようで、ギターをいじっている。

「棗君はパート、ギターなの?」

「は?」

私は何か変なことを訊いたんだろうか。

顔を歪めた棗君は首を傾げた。


「それ、ギターでしょ?」

「違ぇよ、ボケ。ギターとベースの違いもわかんねぇのか。本当に経験者か、お前」

「へ、へぇ、そうなんだ。どの辺が違うとこなの?」

「自分で考えろ」

む、むかつく!!

人が一生懸命話題を作っているのに、それをことごとく無碍にするこの態度。

どうしてこんなに偉そうなの!?


「ギター、借りてもいい?」

「ああ」

カズ君のだという赤いギター。確かストラトキャスターという種類のギター。

割と重量が軽く、高い音が弾きやすいと高校生の男の子が言っていた。

様々なジャンルで使用されていて有名ギターの一つらしい。

ストラップがついていたので、それを肩に掛け、弦に挟まっていたピックを人差し指と親指で挟む。

左手にネックを収め、弦を押さえ、ピックを滑らす。

ギターに触れるのは中学ぶりだが、意外とコードは覚えていた。

素早いコードチェンジはできないので、左手を確認しながら覚えているコードの弦を押さえる。