カノン





「じゃあ、一哉君もカノンのメンバー?あの時はいないように思ったけど」

「その後に入ったんで」

一応敬語らしき言葉遣いで対応する。

あれだけ嫌っていたのに、辛うじてその感情を出さないようにしているカズ君だけど、いつ爆発するのかと正直冷や冷やする。


「そうなんだ。いいタイミングだね」

「は?」


「そろそろ会っときたかったから。カノンのメンバーに」


笑みを浮かべながら勿体ぶる比嘉さんに苛立ちを隠せないカズ君。

「丹波さんから聞いてない?」

「だから何すか」

また言葉を溜める。私達の反応を楽しむ様に眼鏡の奥で目を細めていた。


「スカウトしてるんだ。レッド・キャッスルに」


「・・・は?」


最後の言葉は私とカズ君で綺麗に被る。

私達の反応に満足したのか、比嘉さんは楽しそうに笑っていた。

頭の中で比嘉さんの言葉が何度も繰り替えされているにも係わらず、理解するまでに時間を要した。


「その様子だと、初めて知ったって感じだね」


「何言ってんだよ!ふざけんな!」


普通のタメ口になったカズ君は店の中ということも忘れて怒鳴り出した。

私はそれを制する余裕が無く、比嘉さんの言葉を脳から排除しようと必死だった。


「せっかちだなぁ。決まったわけじゃない。まだ話を持ちかけている段階だよ」


「はぁ!?咲綺を引き抜こうってのか!」

何事かとやってきた店員に注意され、比嘉さんは「すみません」と繕った笑みを浮かべて頭を下げた。


「君達からも誘っておいてよ。カノンにいるよりレッド・キャッスルに入った方が丹波さんの為だと思うよ」

「誰がッ・・・」

「じゃあ、またね」

カズ君に言い返す隙を与えず、店を出て行った比嘉さん。


「2度と会うかッ!!」

大声で叫んだので、店員が眉を釣り上げて飛んで来て、2度目の注意を受けたけど、正直上の空だった。