カノン




早めに練習を切り上げてカズ君とやってきた「戸崎楽器店」。

夏休みに来た時とはレイアウトが若干変わっていたけど、ギターコーナーは変わらずの場所にあった。

「種類が膨大だな」

「何がどう違うのかな」

「さぁ?」

商品名に「エレキギター弦」とか「アコースティックギター弦」とか書いてあるのが幸いだ。


弦が入っているらしい正方形の袋のパッケージは英語ばかりで値段の上に書いてある小さい日本語を追って行かなくては何のことかわからない。

値段も安いのから高めの物まで幅広い。


「この初心者におすすめ、とかでいいかな?」

「何をおすすめされてるのかわかんねぇけどな」

棗君も連れて来るべきだったか、と後悔した。



「あれ?君、確か・・・」

声がした方に2人で首を向けると見慣れない顔が私達を確かめるように徐々に近づいて来ていた。

「比嘉っ・・・」

カズ君は思わず呼び捨てた名前の後ろに微妙な間を置いて「先輩」と付け加えた。

え、この人が?と目を丸くして比嘉さんの姿を上から下まで確認した。


「意外とそういうの気にする太刀なんだね。音楽室の壁に穴開けて出て行くようなハチャメチャな男は上下関係クソくらえ、くらい思ってるのかと思った」


くすくすと笑う比嘉さんの言葉に私は苦笑する。

壁に穴開けたって・・・。


音楽準備室が破壊されていないところを見ると、カズ君が1度退部した当時はあれで穏便に済んだ方なのか、と少し大人になったらしいカズ君を見上げた。


「ギター、続けてたんだね」

「まぁ・・・」

「そちらは彼女かな?」

私に視線を向けて笑顔を作った。貼り付けたような笑みを浮かべる人だな、と思った。


ライブハウスでは自由自在に動く指に見惚れていたからあまり顔は見ていなくて、こんな人だっけ?と首を傾げる。


レッド・キャッスルの比嘉さんだという認識が無ければ、バンドをやっているようには到底思えない風貌。

嫌に落ち着き払った立ち姿は大学生にも思えたし、着ている衣服がしっかりしているのも私が着るような私服とは訳が違うことが有り有りとわかる。


カズ君が比嘉さんのことを頭がキレると言っていたけど、眼鏡の効果もあってかインテリな印象も与えた。



「いえ、違います」

「君・・・、どこかで僕と会った?」


初めて会った身近な尊敬する人の記憶に多少なりとも留めてもらえたことに少し心が弾む。

キッパリと答えると、比嘉さんは顎に手を添え思案する態勢に入った。


「あ・・・、多分ROSEのイベントで・・・」

「あぁ!下手な・・・失礼。カノンのギターの子か」


今絶対、下手って言いましたよね?


言われても仕方の無いことだけど、そういう覚えられ方か、と肩を落とした。