「ごめんごめーん!」
部活に遅れたことを詫びながら入ってきた咲綺ちゃんに一同注目。
咲綺ちゃんは「何?」と不思議そうな顔をしたけど、いつもと変わった様子は無い。
「早くやろうよ」
遅れて来たことをすっかり忘れたようなこの言いよう。
咲綺ちゃんに促され、自然と定位置につき、練習を始めたけど、なんだかあまり集中できないでいた。
比嘉さんが咲綺ちゃんの彼氏なのかなぁ、などと考えているせいか咲綺ちゃんにばかり視線が行き、目が合いそうになると咄嗟に逸らした。
完全に咲綺ちゃんと比嘉さんのことについて言及するタイミングを失った私達はいつも通りの練習を進めて行った。
カズ君のギターパートも増やした「プラチナ」を演奏していた中盤、突然ビィーンという音と共に、あるべき場所から2弦が消えていた。
「あれ、切れちゃった?」
ギターから地面へ垂れる細い銀色。演奏は中断され、棗君以外が白のレスポールに視線を注いだ。
「えっと・・・これってどうすれば?」
「交換だろ」
「棗にやってもらえば?」
馨君の提案に余計なことを、と言わんばかりに睨み付けた。
「・・・弦はねぇからな。買って来い。もう行けるだろ、楽器屋」
「あ、じゃあ俺も行きたい。俺のも替えてほしいんだけど」
カズ君が手を挙げてそう言うと、棗君はあからさまに不快そうな顔をした。
「はぁ?」
「ちょっと錆始めた」
「お前は使った後、拭かねぇからだろ!」
「・・・めんどい」
「今の聞こえてねぇと思ってんのか!?その言葉、熨斗付けて返す!」
もう日常茶飯事となった棗君とカズ君の掛け合い。馨君が呆れた顔で止めに入るのも最早定番だ。
「消耗品なんだしさ、いつか寿命は来るよ。次からカズはちゃんとギターの手入れして、棗は今回大目に見てやりなよ」
「またお前は甘いことを。付け上がるぞ、こいつは」
「もう・・・面倒臭いなぁ」
棗君もカズ君も面倒臭いようだけど、その言葉の適任者は間違い無く、苦労絶えない馨君だろうと思った。

