すっかり肌寒くなり、街にクリマスカラーの赤と緑が色付く頃、事件は起きた。
「咲綺ちゃんがレッド・キャッスルのギターと会ってた?」
ビックニュースだと飛び込んできたカズ君に棗君は「やかましい」と一喝入れたもののそれすら無視して日曜日の出来事を興奮気味に語った。
「絶対あれは比嘉!」
「比嘉?」
聞き慣れない名前に馨君が訊ねると、苛立ったように食って掛かる。
「だっから、レッド・キャッスルのギターだって!」
そう言われて、すぐに思い出すのがライブハウスROSEでの圧倒的な存在感だった。
レッド・キャッスルの中でも馨君が褒めたのはギターの男の子で、意思を持ったかのように動く指と奏でられる一つ一つの音に聞き入ってしまった。
その彼が、比嘉というらしい。
「知ってるの?」
「中学の軽音部の先輩!金持ちで頭はキレて嫌味な奴だからムカついて1週間で俺はやめたけど」
「・・・中学でもそんなことやってたの?カズ」
「うるせぇ!今はそこどうでもいいだろ!」
「知ってるか?カズ。うるせぇ、は言い返せなくなった時の定番らしいぞ」
「だからうるせぇって!」
自分が言われてたのに・・・。
鼻で笑う堂々とした棗君に向かってそんなことは言えず、心の内に仕舞っておく。
「それで?咲綺とその比嘉君は何してたの?」
「普通に飯食ってた。なんか洒落た感じの店で」
「店に入らなかったの?」
「入るかよ!カッコ悪いだろ、それ!」
「いい感じだったら邪魔しちゃ悪いしねぇ」
冷静に対応する馨君と興奮が冷めやまないカズ君とでは対照的過ぎて、会話が成り立つことが不思議だと思った。
なんだか、全く別の話をお互いにしてるみたい。
「見てくれが良くたって、あんな暴走列車みたいな女の何がいいんだ」
「案外、好きな人の前では女の子らしいのかもよ?」
「うえっ・・・想像つかね」
棗君は本人がいないことをいいことに暴言を吐き、最後には顔を歪ませる始末。
あんな美人な咲綺ちゃんと中学から一緒にいながら、恋愛沙汰に発展しない理由がわかった気がする。