「お前なぁ、何も言わずに消えるんじゃねぇよ」
「え、棗君!?」
母と別れた後、泣き腫らした目を風に当てていたら元に戻るんじゃないかな、と校舎の裏で地道に待っていたところ、棗君が現れた。
「携帯持ってねぇの?何回も鳴らしたんだけど」
「え、ごめん。・・・無視、した」
「おい、ふざけんなよ、てめぇ」
「だ、だって、戻ったら泣いたのバレちゃうと思って」
「だったら上手いこと言えばいいだろ!?お前のことみんな探してんだぞ!」
「ご、ごめんなさいっ」
棗君は深く溜息をついて、私の隣に腰を下ろした。
「なんか最近、お前のあやし役になってる気がするんだけどな」
「涙腺、ゆるいみたい」
「せき止めておけよ。それか、俺の前はやめろ。母親のこともあって、あんまり、得意じゃねぇんだよ、女の涙って」
ポツリ、と漏らした棗君の言葉に反応すると、棗君もバツが悪そうにしていた。
私は顔を何度も思い切り叩いてみた。
棗君はその行動に驚いて、私の手を取って「何してんだよ」と辞めさせた。
「泣いてた証拠を隠蔽。全部赤くなったら、何が何だか分からなくなるでしょ」
私でできることで、棗君の気持ちが少しでも晴れてくれたら何でもいい。
また、手を動かそうとすると棗君に止められた。
「やめろって。極端な奴だな、お前は」
「だって、棗君が辛そうにしてるとこ、見たくないんだよ」
「だからって、お前が辛そうな顔すんなよ、ばーか」
頭が沈むくらい、強く私の髪をぐちゃぐちゃにした棗君。
「行くぞ」
「どこに?」
立ち上がった棗君を見上げ、首を傾げると当然のように棗君は言った。
「後夜祭。出ねぇの?」
「出たいけど・・・、顔戻らないし」
自分で叩いたし、半分は自業自得なんだけど、後夜祭って花火が打ち上がるから本当は見たかった。
季節外れだけど、今年最後の花火。
「来いよ」
腕を引っ張られ、棗君に先導されて成すがままに歩き出した。
「どこ行くの!?私、まだ人前には・・・」
「人いねぇから安心しろ」
そう言われて連れて来られたのは棗君のクラス。
棗君のクラスはグラウンド側に面していて、花火が打ち上がるのを見るには絶好の場所かもしれない。
後夜祭中は全員グラウンドに出てしまうので、校内に残る生徒はいない。後夜祭も催しはあるからそれに参加する。
「他の奴らには見つけたって電話かけとくから、ここで見とけばいいだろ」
外の照明に照らされて、ぼんやりと映る棗君の表情が光のせいか柔らかく見えた。

