咲綺ちゃんは棗君の前に立ち、見上げた。
「気づいてるでしょ?カズがあの曲マスターしてたの。パワーコードだけじゃないよ、あの曲。あんた達が仲悪いの知ってるけどさ、努力は認めてやんなよ。パワーコードしか弾けなかった奴がここまで弾けるようになるって相当練習した証拠だよ?何で帰ってきたか知らないけど、そんだけ強い想いがあったってことでしょ」
私が言えなかったことを全て咲綺ちゃんが代弁してくれた。
馨君が私を見下ろして、ウィンクした。
上手くいけば、咲綺ちゃんも味方に付く、というのが現実になったわけだ。
「あんた、あの観客見てもカズ追い出すの?」
観客は明らかにカズ君を受け入れてくれていた。
棗君もそれはわかっているのか押し黙り、しばらくしてから舌打ちすると「できんなら最初からやれ!」と捨て台詞を吐いた。
「おかえり、カズ!」
「痛って!!加減しろよ、馬鹿力!」
咲綺ちゃんがカズ君の背中を叩くと、歯切れのいい音が響き、カズ君が悲鳴を上げた。
「多少は怒ってるのよ?あたしも。相談されなくって悲しいわーって」
「悪かったよ。そう簡単には戻れないと思ったから密かに上達して全員見返してやろうって思ったんだ。馨には途中でバレたけど」
「ごめんね。黙ってて。どうしても、カズ君に戻ってほしくて・・・」
「わかったわかった。ちょっと不貞腐れたかっただけよ。いつのまにかふたばとカズが仲良くやってるんだもの。知らなかったわー。カズとふたばが秘密を共有する仲だったなんて」
「変な言い方するな!」
「誤解だよ、咲綺ちゃん!」
同時に言葉を発したのでお互いに何を言ったのか聞き取れなかった。
「息もぴったり」
咲綺ちゃんはからかいモードを全開にしてクスクス笑っていた。

