「ここで棗が駄々こねただけでこれまでの時間が無駄になるんだよ?棗がバンドやるって決めて俺たち集めたんでしょ。こんな簡単に無くなっていいわけ?」
何やら、感動モードが漂っている。
馨君が話を同好会存続の危機へすり替えたことによって棗君と咲綺ちゃんも危機感を感じ、争いは無くなったのはいい。
そもそも入部することを決めたわけじゃないのに私が入るかカズ君が戻ってくるかの二択が成立しているのはおかしい。絶対おかしい!
けど、それを言い出せる雰囲気でもなく、その場で三人を見守っていた。
「くそッ!仕方ねぇな!入れてやるから覚悟しろよ、葉っぱ!」
「は、葉っぱって私のこと・・・?」
「じゃあ、入部届けにサインを」
はい・・・?
馨君は素早く私の前に入部届けの用紙とペンを差し出した。
馨君の笑顔で簡単に懐柔されてしまいそうになるが、辛うじて自分を保った。
「あの、私、見学に来ただけなんですけど」
言えずにいたことを思い切って口にしてみたが、馨君に反応がなかった。
無視!この距離で聞こえなかったが通じるとでも?
「まだ入るって決めたわけじゃ・・・」
「覚悟しろって言っただろうが、葉っぱ!逃げる気か!?」
何なの、この人。クールそうに見えて実は熱血スポ根魂?
意味わからないよ、この人達。
「いや、逃げるも何もまだ入るって決めたわけじゃないよ?それと、私ふたばだよ。分類大きすぎない?それ」
「お願い、ふたば!まずはやってみよう?何事もやってみないとわかんないよ」
「さ、咲綺ちゃんまで・・・」
「とりあえず、名前貸してくれるだけでいいんだ。俺たちを救う署名活動だと思って。一筆書いてくれないと夢を失った俺たちはグレちゃうかもしれない。棗なんて執念深いから恨まれたら大変だ」
「・・・え、っと、脅しですか?それは」
「そんな、人聞きが悪い。俺は可能性の話をしているだけだよ」
馨君は小声で脅し紛いの言葉をかけると、笑顔のまま更に用紙を押し出した。
「・・・私、練習には毎日出れないと思いますけど・・・」
「俺もバイトがあるから毎日は来てない」
「あの人と上手くやっていけないように思いますけど・・・」
「俺がフォローするよ。棗は口が悪いけど極悪人じゃない」
咲綺ちゃんとは違うが、この人も相当押しの強い人だ。
笑顔を崩さず私の発言するマイナス要素をことごとくぶった切る。
「・・・よろしくお願いします」
敗北した私は頭を下げると馨君は「こちらこそ」と穏やかに答えた。

