「私、お母さんにライブ見に来てほしいって言ったの」
使用する機材を集め、体育館へ移動する準備を始めた私と棗君。
咲綺ちゃんと馨君も直に来るはずだけど、着替えなどに手間取っているのかもしれない。
「来るのか?」
「さぁ・・・どうだろう。時間があればって」
「行かないとは言われなかったんなら、まだ話す余地はあるんじゃねぇか?」
「あ、棗君もそう思う?私もそう思って、もし来てくれなくても、卑屈になったりするのはやめようって決めてる」
「そうか。来るといいな」
棗のかけてくれた言葉が優しくて顔がにやけた。
こういうところ、本当にずるいと思う。
棗君のこと、好きだっていうこと、全然やめれなくなるんだから。
「ごっめーん!」
勢い良く飛び込んできたのはリボンを首からぶら下げたままの咲綺ちゃんだった。
「まさか、着替えながら来たわけじゃねぇだろうな」
「あったりまえでしょ!」
リボンを付けながら棗君に反撃した。
その後、しっかり化粧も落とした馨君がやってきて1度全員で通し、台車で機材の運び込みをし、リハーサルを行った。
リハーサルは舞台を使う演目全て合同でやるのでダンス部や吹奏楽部などの演奏の触り部分を聞き、最後に準備に手間取る軽音部がリハーサルを行ってそのまま本番を1番手で迎える。
生徒や父母の足音や声が多くなるにつれ、本番が近付いていることを実感する。
それまで何度トイレに体育館を出たことか。
「平気?」
「うん。緊張してるだけ」
「2曲目のソロ、ふたばのタイミングでいいからね」
「ありがと」
「プラチナ」はライブハウスで1度、観客の前で演奏している経験があるからまだマシだ。
でも、「ケープ・オブ・グットホープ」の方は練習して日も浅いし、初のソロパートがあるし。
それに、せっかく完成させてくれた棗君の曲だ。
私が失敗するわけにはいかない、という重圧が圧し掛かる。
しゃがみ込んでいると、目の前に学ランの足が立ったので見上げる。
「及第点やるっつったろ。思い切りやれ」
棗君はそれだけ言って立ち去ると、後ろの壁に寄りかかった。
緊張を解そうとしてくれているんだな、と理解して私は「よしっ」と小さくガッツポーズを作って立ち上がった。

