カノン




文化祭2日目も朝から他校生や父母が行き通い、なかなかの盛況ぶり。

軽音部の部室は1階の角で、周りには模擬店などないので喧騒からは少し遠のく。

「今日はスーツじゃないんだ・・・」

先に来ていた棗君がいつもの学ラン姿で、少し落胆する。

「あたりめぇだ。そもそも裏方なのにスーツ必須ってどういうことだ」

似合ってたのに、という言葉は飲み込んだ。

棗君の逆鱗に触れること間違いなしだろうし。


「とりあえず、通しで弾けよ」

棗君は定位置で腕を組んで、聴く体制に既に入っていた。

慌ててアンプとギターを繋ぎ、ギターを肩から掛けた。

「横向いて弾いていい?」

「何でだ」

「正面から見られてると緊張するから・・・」

「本番はもっといるんだぞ。俺1人にびびってどうする」

相手が棗君だからなんだけどなぁ、とは言えない。


「お前の指の動きとかも見たいから正面向け」


改めて対峙すると息が詰まりそうになる。


軽音部に入部したての頃もこんなことあったな。

あの時もその見透かしたような目で私をじっと見ていて、息が詰まりそうだったけど、今は別の理由が大半を占める。


「お願いします」

見てもらうんだし、と思って一礼してから「プラチナ」と「ケープ・オブ・グットホープ」2曲続けて演奏した。



「・・・全体的にビブラート、もっと強めがいい。カッティングの前後、左手が危ういから気を付けろよ。あとはー・・・」

顔を顰め、しばらくしてから苦笑交じりに、

「あとは特にねぇ。まぁ、及第点ってとこだ」

と棗君から最高の褒め言葉を貰い、私は両手を天井高く上げた。


「やったー!」


「及第点って意味わかってんのか。合格ギリギリ範囲ってことだぞ」

「うん。それでも棗君に合格って言われたの初めてだから。ちょっとは喜びに浸ってもいいでしょ?調子には乗らないから」

「・・・まぁ、いいけど」


小踊りまではしなかったが、愛器を抱き締め、本番一緒に頑張ろうね、と心の中で話しかけた。