棗君を取られた女子達は早々に引き揚げて行き、私と咲綺ちゃんの間に座った棗君はご機嫌斜めだ。
「イライラしすぎておかしくなるかと思った」
「傍から見ても愛想の欠片もなかったわよ、あんた」
裏方でも一応はスーツ着用らしく、黒のスーツを着こなす棗君に私は見惚れていた。
「俺、明日は部室に籠る。バンドの最終チェックとかなんとか言って」
「あ、私も最終チェックしておきたい!」
今日の放課後は文化祭の時間が終わると共にすぐ校内に鍵をしてしまうので、部活などは禁止ですぐに下校させられる。
明日の15時から体育館で舞台を使った演目が催されることになっていて、その前にリハーサルはやるが、音のチェックくらいで終わってしまう。
そうなると、昼までの時間が最後の練習時間となる。
「そうしろ。最後に見てやる」
「あたしも行きたいけど、去年の前科があるからやめとくわ」
「去年の前科って?」
「サボってたらほっぺをこう、ぎゅーっとやられて、あんたのせいで馨君のクラスに集客率負けたわ!って。ほら、集客率1位のクラスに毎年賞品が出るじゃない?その鬼学級委員が今年もいるからさー」
咲綺ちゃんは頬を両端に引っ張り、身震いした。
咲綺ちゃんのせいで、といのは責任転嫁もいいところだとは思うが、咲綺ちゃんが集客に大貢献しているのは否定できない。
「昼からは抜けれるようになってるだろ。そしたら全員で1回合わせる」
「馨は準備にちょっと時間かかるわよ。なんてったってナースだから、ぷくくっ」
「・・・あいつは何だかんだで対応能力あるから楽しんでんじゃねぇのか?」
「あんた程、顔に出す奴は早々いないわよ」
「苦手なんだよ、あんな高い声で喋りまくる女って。質問攻めでうぜぇったらねぇ」
「好きな人のどんな些細なことでもいいから知りたいってのは純粋な乙女心だと思うけど?」
「だったら純粋な乙女心ってのは俺にとっては迷惑なだけだ」
純粋な乙女心って言うのは具体的にどういう物か判断が難しいが、とりあえず、棗君にとっては迷惑、と記憶しておいた。

