カノン




「チョコバナナいかがですかー?」

「お化け屋敷はこちらでーす!」

クラスごとに揃えた色とりどりのTシャツを身に着けながら生徒達が大声を張り上げ自分の店を宣伝する。


去年の文化祭と言えば、ろくに呼び込みはできないし調理は指に火傷されたら面倒だ、と扱いずらい私は爪弾きにされ、文化祭が終わるまで隠れていた苦い思い出が蘇る。


多少社交性のアップした私はクレープ屋の店当番としてクレープを渡しながら笑顔を振りまくことはできるようになった。


大声を出して客の呼び込みは苦手だが、去年に比べたら大きく進歩した方だ。


「はーい、団体さんですよーっと」

咲綺ちゃんは類まれなる容姿と社交性を大いに披露し、帰ってくるたび客を呼び込んで来る。

男の割合が多いのは咲綺ちゃんならではだ。

おかげで、クレープ需要が低いと思われていた男子にもバカ売れし、大盛況となっている。


「あたし、ちょっときゅうけー!」

ロッカーをずらしてカウンターにした裏でクレープを作っているのだが、その横で椅子にドカッと座る。


「休憩してもいいけど顔は出しといてよー。咲綺が見えるだけで売り上げ違うんだから!」


クレープを作っていた女子があっち、と私の横を指差すと「はいはい」と面倒臭そうに私の横に座り、背もたれに背中を預けた。


「お疲れ。咲綺ちゃんはゆっくりする暇もないね」

「動物園のパンダか、あたしは。酷いわ、みんなして。あたしをコキ使ってさー。いらっしゃいませー」


愚痴りながらも客が来るとすぐさま笑顔で応対する様は尊敬に値する。

カップルの男の方は咲綺ちゃんの笑顔を目の前にして固まっていた。


「私、もう少しで休憩なの。だから、一緒に校内回ってくれない?」

「いいよ。あたし、店がどこにあるかだいたい把握したから、食べたい物いいなよ」

去年だって本当は文化祭を楽しみたかった。


クラスで揃えたパッションピンクのTシャツの背中にはクラス全員の名前があり、その中に私の名前もちゃんとある。


嫌な思い出しかない文化祭を今年で塗り替えたい。

咲綺ちゃんの手を取り「ありがとう!」と言うと咲綺ちゃんは目を瞬かせてテンションが急上昇した私を不思議そうに見ていた。