カノン




スタジオでの練習を終えたその日、ギターケースを担いだまま家路についた。

今までは学校に置いて来ていたギター。

制限が何も無ければそんな面倒臭いことはしない。


母は私が帰ってからは私に対して「レッスン」という言葉を口にしない。

話の内容からピアノが抜けただけで、母との会話が格段に減ったことを実感し、元々の会話の少なさを痛感していた。


私の最終目標は母に私がやっていることを認めてもらうこと。


母のことを思うとギターを持ち帰ることは今まで躊躇っていたが、文化祭まであと2週間程しかないこともあり、家でも練習できれば、と思っていた。


家出から戻ってきた時程ではないものの、家に入ることが難関に思えてくる。


「ただいま」

家の中の様子を窺いながら靴を脱いでいるとリビングから母の「おかえり」という言葉が返ってきた。

「ふたば、それ・・・」

リビングから顔を出した母は目を丸めて固まっていた。

卒倒は免れたが、相当ショックのようだ。


「本当に、戻る気はないの?」

ピアノのことだ、とすぐに感付き、意思の固さを表す為にゆっくり頷いた。

「そう・・・」

「あ・・・」

悲しそうな顔をする母を見ていられず、つい呼び止めたが、続く言葉が見当たらない。


だって、私は母の期待できるような言葉を言ってはあげられない。



「あ、のね、私、文化祭でバンド・・・やるの。もし・・・もし、なんだけど、時間があったら見に来てくれない?」



途切れ途切れの言葉でちゃんと伝わったのかわからない。


母の様子を窺っても何の感情も読み取れない。


「見てほしいの。私がやってること、お母さんに」


否定して、聞く耳を持ってくれなかった母にどうやって私の気持ちを伝えたらいいんだろう、って思ってた。


もし、私達のバンドを見てくれるなら、その演奏で伝えたいと思った。


「・・・時間があったら、ね」


前向きな言葉とは思えなかったが、行かない、と断言されなかっただけマシかもしれない。


母もきっと、歩み寄ろうとしてくれているんだと思いたい。