カノン




「2曲目にやろう、この曲」

「・・・いいのか」

珍しく弱気な棗君に馨君は首を傾げた。

「いいのかって、そのつもりで持ってきたんでしょ?」

「咲綺の曲に劣ってることはわかってる。情けならいらねぇぞ」

「心外だな。文化祭と言えど、観客がいる前で納得できない曲は演奏できない。情けなんてかけたつもりはないよ」


私は棗君に駆け寄り、後ろに立つとこっそり裾を握った。

「あたしも好きだよ、こういうスカッとする曲。棗らしくないけど、いいよ」

見上げたら棗君の口元がまたピクピクしている。

眉に皺を寄せているのは喜びを押し殺している為なのか、不気味で怖い。


「怖っ!何、その棗の顔!」

「違うよ、咲綺。これは棗がすごく嬉しいのを悟られたくない顔だよ」

「なっ・・・!ちげぇよ!でたらめ言うな!」

「これも照れ隠し」

「うるせぇ!」

「うるさい、って言葉、言い返せなくなった時の定番台詞よねー」


からかうように咲綺ちゃんが笑うと、棗君は「くそっ!」とギターを私に押し付け、ソファに勢い良く座り込んで腕を組んだ。


「詩はどうするの?」

「考えてる。咲綺に合った詩、考えてやるから待っとけ」


不機嫌な棗君はベースを抱えて自分のパートを練習し始めた。


「あ。こっち来い、葉っぱ」

近づくと鞄から新たな譜面を取り出した。

「TAB譜!ギターパートの!」

「お前、文化祭までにビブラート覚えとけよ。そこまでの技術でできるようにしといた」

「わかった!」

TAB譜を抱き締めると怪訝な顔をされた。