「ふーん」
立ち上がった棗は思ったよりも背が高く、180cm近くはあると目測で判断した。
「お前が今言った名前は確かにすげぇギタリストだ。でも、それは一握りの天才。一般的に言えば女は手が小さいし、握力も弱いから男に劣るのは当然だと思わねぇか?」
私の後退する三歩が棗君の一歩。
すぐに追いつかれ見下ろされると、指先から熱を奪われていくようだ。
体全体までそれは広がり、一歩も動けなくなったのは本当に体が凍りついてしまったせいだと錯覚する。
「まあ、お前がその天才の1人なら俺がさっき言ったことは撤回してやる。でけぇ口叩くならそれくらいの技術、あるんだろ?あ?」
「ちょちょちょっ!何してんのよ!」
咲綺は慌てながら間に入り、私の顔を覗き込んだ。
「平気?」
な、何この人、怖すぎるんですけど!
とりあえず頷くと、咲綺ちゃんはキッと棗君を睨み上げた。
「乱暴しないでよ!」
「はぁ!?してねぇだろ!そもそも何だ、こいつは。初対面から説教してきやがったぞ」
「元は棗の口が悪いせいでしょ!?何?カズとの喧嘩で八つ当たり!?」
「あいつの名前を2度と口に出すんじゃねぇ!」
「カズが練習しないからって退部にすることないじゃない!初心者なんだから、ギター経験のあるあんたがちゃんと教えないでどうすんのよ!」
「俺のせいだって言いたいのかよ!」
「当たり前でしょ!!」
掴み合いの喧嘩でも始まりそうな勢いの2人を止める術を模索していると、後ろに立っていた馨君が溜息を吐き、2人の間に割って入った。
「ちょっと冷静になって考えなよ。カズがいなくなった今、部員は俺たち3人。同好会から部活にしてもらう申請の期限は来月。それまでに4人いないと即廃部だ」
言い合っていた2人の動きが止まった。
「そうだった!!何が何でもふたばを部員にしないと!」
「俺は反対だ!」
「じゃあ、カズと仲直りしてきてよ」
「冗談じゃねぇ!」
「そんなでかい図体して駄々こねても可愛くないよ、棗」
「こねてねぇよ!」

