演奏が終わり、恐る恐る目を開けると、何も変わらない人々が目の前を交差するだけ。


「・・・ごめん」

「こうなることは最初からわかってた。お前の提案に乗ったのはお前を諦めさせる為だからな。これで清々するな」

ギターをケースに仕舞いながら話す棗君はいつもと変わらなかった。

平気な顔をしている棗君を見ていると、胸が縮こまる様に苦しかった。


耳に届いているはずなのに、振り向かれないこの状況が1番辛いのは私ではなく、棗君なのに。

結局、私は棗君を2度も傷つけただけなのかも・・・。





「あ、あの!」


顔を上げると、肩で息をしている中学生くらいの女の子が立っていた。


「もう終わっちゃいました!?」

「え・・・?」

「昨日、塾の帰りにここ歩いてたら聞こえてきて、歌がないのって珍しいなって思って遠くから聴いてたんです。家に帰りたくなかったし・・・」

訳がありそうに俯いた女の子は口を尖らせていた。

いつの間にか棗君も片づけるのを辞めて彼女から発せられる言葉を待っているようだ。


「でも、あなたの曲を聴いてたら頑張ろうって思えたんです。必死に何かを伝えようとしているあなたの姿に心打たれました。今日もここに来ようと思ったのに、塾で残って自主勉強してたらこんな時間になっちゃって。明日もここでやってますか?」


私はもう、涙を流していた。

1人の中学生の言葉に次から次へと流れ出る涙が止められない。


「今日で終わり」

ギターケースの蓋を閉じてそれを肩に担いだ。

「そう、ですか・・・」

私は涙を拭い、残念そうにしている彼女に慌てて否定した。


「明日もやるよ!ね?棗君」

「路上ライブは3日間の約束だ」

女の子と棗君を交互に見たが、棗君はピシャリと私の提案を跳ね除けた。


「だって、こんなに棗君の曲を楽しみにしてくれてるのに・・・」


「だから、次は松陽高校の文化祭。こんな中途半端な曲じゃなく、完成した曲を聴きに来てほしい」


落ち込んでいた彼女は顔をぱぁっと明るくして「絶対行きます!」と大声で宣言した。