カノン




「仲直りしたわけか」

「わかんない・・・」

「は?」

路上ライブは最終日。

今日も立ち止まってくれるお客さんはゼロだ。

一休みの為に買って来た缶ジュースを1本飲む時間がいくらでもあることが虚しい。


「家には入れてくれたけど、お互い気まずくて、何も喋れないまま寝ちゃって」

「入れてくれたんなら、出てけって言われた後にしては上出来じゃねぇか」

「そうかな?」と確認すると棗君は頷き、くいっ、と残りのコーヒーを喉に流し込んだ。


「千尋さんにもね、突然理解しろって言われても無理だと思うわよって言われた」

家に帰ったことを千尋さんには昨日の夜のうちに電話した。

時間はかかるけど勘弁してあげなよ、と。


「すごいよね。何でそんなに人の気持ちわかるのかな?うちのお母さんと会ったことないのにね」

「お前は人の気持ち考える前に自分が理解しろよ。この現状を」


顎で示されたのは目の前ですれ違う見知らぬ人達。


「あと1曲で最後にする。誰も立ち止まらなかったらもう、曲のこと口にするなよ」


私が頷くのを確認してから棗君は立ち上がってアコースティックギターを肩に掛けた。


3日経って、棗君のギターは更に上手くなっているはずなのに、人々がその変化に気付くことは無い。


祈る思いで雑踏に消える一つ一つの音を聞いていた。