カノン




「明日で最後だからな」

2日目も誰一人、少しも立ち止まってくれる人がいないまま、終了となった。

「わかってるよ」

電車に乗り込み、徐々に近づく自分の家がどんどん離れて行ったらいいのに、と思ってしまう。


「今日、ギターどうした?」

「学校に置いてきた」

「何で」

「家に、帰ってみようと思って」

「自分の?」

「うん。私がギター背負ってるとこいきなり見たら、母親卒倒しちゃうかもしれないなって」

「大袈裟だな」


確かに少し大袈裟だったかもしれないけど、ショックは受けるだろうから、やっぱり辞めておく。


「信じ切っていた理想像通りの娘が実は掛け離れた生意気娘だったって知ったんだからショックも大きいよ、きっと」


「親のための人形じゃねぇんだから、普通にしてろよ」


棗君の言葉になんだか納得してしまった。


「人形ってぴったりかも。前の私って」

誰かの力を借りないと自分は動くこともできなくて、中身は空っぽ。


感情を押し殺して、何も気づいていないふり、傷ついていないふりをしていたら無表情になって顔の筋肉が固まって本物の人形になりそうだった。


「少なくとも、今は人形っぽく見えねぇよ。突然キレるし泣くし、俺に路上ライブやれとか突拍子もないこと思いつくし」


最後の言葉には苦笑いしたが、心底嫌そうではなくて良かった。


前の私だったらこんな大胆なことを行動に移すなんてできなかっただろうな。


押しの強い軽音部メンバーに、きっと触発されたんだなって思う。

棗君にはうざったく思われる程、1曲に固執して路上ライブまでやってもらっているし。


「じゃあ、行って来るね」

「ああ、行って来い」


棗君の言葉に背中を押され、家の最寄駅で別れてホームに降り立つと、深呼吸を一つしてから足を踏み出した。