カノン




路上ライブが終わると私は千尋さんの家に戻り、文化祭で演奏が決まっている「プラチナ」の練習に励む。


コードのチェンジだけで済むなら譜面通りに弾くことはできるけど、カッティングやチョーキングが混ざった瞬間、リズムが狂ったり、できていた次のコードチェンジができなかったりする。


「頑張るわねー」

「カズ君にあっという間に抜かれちゃって悔しいんです」

「カズ君って棗と犬猿の仲って言う?彼、辞めたって聞いたけど」

「上手くいけばまた戻ってこれるかもしれないんです。あ、これ棗君には内緒でお願いします」

「まぁ、それはいいけど。ふたばちゃん、家のこと、そろそろ考えてみたら?」


考えないように、頭の隅に追いやっていた最大の問題を千尋さんの手によって引っ張り出されてしまった。


ずっと、ここにいられないのもわかるけど、問題に直面する勇気もない。


「時間が経てば経つ程、帰り難くなるわよ。この辺が潮時じゃないかしら」


時間が解決してくれるのではないか、という期待もあったけど、千尋さんの言う通り、日が経つに連れて家路への足は重くなる一方だった。


母がもう見限っていたらどうしよう、とか、上手く話せなくて結局確執が残ったままかもしれない、とか不安要素は考え出したらキリがない。


家にいた頃は母に苛立ちばかり感じていたのに、今思いつくのは不安ばかりだということに気づいて小さく笑いが込み上げる。


私を否定されてもこのまま疎遠になってしまうのを恐れるのは母との全ての思い出が憎らしいわけではないからだ。



「明日、家に寄ってみます・・・」

「付いて行こうか?」

「1人で頑張ってみます」


千尋さんの優しさに甘えたくなったが、首を振って自分の甘さを蹴散らした。


棗君に逃げないでほしい、と思いながら路上ライブまでお願いしたのに、自分自身が逃げてばかりいるのはフェアじゃない。


そう思ったら、棗君の隣に立っている資格なんてないような気がしてきて、明日の路上ライブが終わったら家に戻ってみようと思った。


母に会ったら何から切り出せばいいか考えているうちに夜は更けていった。