カノン




アコースティックギターは麻生さんが昔使っていたやつがあるから、と言ってそれを借りることができた。



曲の方は中途半端な状態で終わっているので、ちょっと音程を足して1曲のように見せかけたらしいけど、私が聞いた限り違和感はなかった。


文化祭の曲の練習もあるので短期決戦でやるしかなかったから棗君は2日間、寝る間も惜しんで練習したらしい。


人目に付く以上、拘るところは拘りたいと棗君はストイックに練習を重ねていた。


未完成の曲を演奏すること自体、不本意なんだろう。


「うわ、意外とやってんだな、路上ライブ。今まで素通りしてたから気づかなかった」


棗君が割日券を配っていた駅周辺は飲み屋街も多く立ち並んでいるので夜になっても人が多く行き通い、街頭も煌々と地面を照らすから時間の感覚が鈍りそうだ。


「はぁ・・・何やってんだか、俺は」

アコースティックギターのストラップを肩から掛け、ピックを右手に持つ。


「咲綺ちゃんが言ってた。魂で唄えば観客に伝わるんだよって」

「唄わねぇけど、俺は」

「じゃあ、魂で演奏、に切り替えて」

「魂って・・・。何を伝えろっつーんだよ」

「棗君がこの曲に込めた想いをそのままにだよ」


首の後ろを掻いた棗君は最初のコード位置に指を置いてピックを滑らせた。


電源増幅を伴わず、弦の振動がアコースティックギター自体と共鳴し、そのまま音として耳に届く。


アコースティックギターが生ギターと呼ばれる所以でもある。


繊細な音なのに、思い切りよく弾けば迫力もでるし、クリアな音が忙しなく歩く通行人にも届いているはず。


綺麗な音が棗君の曲をいっそう引き立たせる。


目を閉じると雲のような物体にダイブしていくような感覚に陥る。

棗君の奏でる音色に包まれて、心地良くなる。


「おい。何寝てる」

「寝てないよ!?聴き入ってただけ!」

「・・・お前、恥ずかしいことをぬけぬけと」


どうやら1曲終えたらしい棗君は顎で路上を示す。


「見ろ。誰も見向きもしねぇぞ。あと2日やる意味あるか?」

何をそんなに急ぐのか、靴を地面に叩き鳴らしながら私達の前を足早に進んでいく人達。


「まだ始めたばかりじゃない。もう1回お願い」


私は何度でも聞いていたいのに。

この音を立ち止まって聞いてほしいのに。

それが叶わないもどかしさが募る中、1日目は終了した。