馨君の「いい案」を全て聞き終え、カズ君は即乗ったが、私は棗君の逆鱗に触れないか不安だった。
「成せば成るよ。上手くいけば、咲綺も味方に付くだろうし、成功すれば見てる人全員がこっちの味方だ。棗が頷かざる負えない状況を作っちゃえばいいんだよ」
ドラムセットをいきなり持ち込んでくるあたり、馨君の突破力は証明済みだ。
そんな馨君が言うから成功しかしないような気がしてくる。
頷かざるを得ない状況を作っちゃえばいいのか・・・。
突然、脳で閃いたことを2人には伝えず「ありがとう、馨君!」という言葉を代わりに残し、走り出した。
行先は1階の部室。
音は出せなくても、アンプさえ通さなければ弦を弾くことはできるだろうし、弦の張り替えや雑誌を読むことができるからまだいるかもしれない。
「棗君!」
勢い良くドアを開けると、驚いたのか、跳ねるように顔を上げた。
「何だよ」
「棗君、アコースティックギター弾ける!?」
「弾いたことはあるけど、それがどうした」
「路上ライブやろうよ!」
「はぁ!?」
ヒントは馨君の作戦と、この前駅で見た路上ライブをやっている人々。
棗君があの曲を完成させないのは咲綺ちゃんに劣った曲だと決め付けているからだ。
なら、それを誰かが認めてくれたら?
「あの曲で棗君が路上ライブするの」
「まだ言うか、お前」
「棗君の曲が1番いい、って言ってくれる人がいるかもしれないよ」
「何でそんなに拘るんだよ。いい加減、忘れろ」
「私、どうしても聞きたいの。あの曲の完成形を。カノンで演奏したい」
睨まれたけど、ここで怯むわけにはいかない。
「やらね・・・」
「3日!3日間だけ!」
棗君の言葉を遮って、指を3本顔の前に突き出した。
「・・・3日やったら二度と口にしねぇか?」
深い溜息をついた後、ぽつり、と落とした言葉に私は激しく頷いた。
「言っておくけど、歩いてる奴を立ち止まらせるって相当難関なんだぞ。無駄な3日になるかもしれねぇんだぞ」
路上ライブの厳しさは客観的に見て知っている。
誰にも立ち止まってもらえなかったり、ギターケースに缶を投げ入れられたり。
「私も棗君と一緒に3日間、路上に立つよ。私が棗君を守るから!」
「・・・女が言うセリフかよ、それ」
小さく笑った棗君の顔がいつまでも脳裏に焼き付いて離れてはくれなかった。

