夏休みの時程、頻繁ではないが未だに続けているカズ君との屋上練習。
最早、カズ君に教えることはなく、逆に私が教わっているくらい。
「また別のテクニックマスターしてる・・・。どっから覚えてくるの?」
「YouTubeとかわかりやすく解説してるのあるからそれで」
今日は1階で父母懇談会があるから、と教頭に軽音部の活動を自粛するよう伝えられた。
不満はあるが、1日で穏便に済むのなら、と従うことにした。
「で、恋敵の家に寝泊まりする気分はどうなの。修羅場とかあんの?」
「あるわけないでしょ」
カズ君はつまらなさそうに、口を尖らせてギターをいじりだした。
「千尋さんにはすごい感謝してる。綺麗で優しくて大人で、棗君が好きになるのもわかるな」
一緒にいればいる程、千尋さんの長所ばかりが目に入って、劣等感を感じずにはいられない。
「最初っから諦めるし。もっとアクティブになれよ。家出する行動力があるんだからさ」
「追い出されたに近いんだけどね」
恋愛と家出を一緒くたに考えるカズ君の思考回路には納得できなかった。
「女の武器使ってけよ、じゃんじゃん。色気とか涙とか。せっかく一晩同じ屋根の下にいたのに・・・」
「つ、使ってないよ!」
慌てて否定したのが、逆に肯定したように解釈したのか、自分から聞いてきたくせにカズ君は目を丸くした。
「は?もう使用済み?一晩を共にした?」
「違うよ!何もない!涙の方!」
否定するあまり、勢いで口走った言葉を撤回しようと口を押さえるが、カズ君は既ににやにやと顔を覗き込んでいる。
「泣いたの?何で?」
「言わない!」
「じゃあ、棗はどんなリアクションだった?」
「・・・すごい困った顔してた」
「そりゃそうだわな。女が目の前で泣きだしたらテンパるわ。それで?」
「泣くな、って頭をこう・・・」
自分の頭をくしゃくしゃ、としてみると棗君の手の温度とか肩の近さとかを思い出して顔が熱くなり、その先を言うには恥ずかしすぎた。
「撫でられたんだー。ふーん。脈なしってわけでもないんじゃね?」
「え!?」
「少なくとも、嫌われてはいねぇだろ」
「そ、そうかな・・・」
「あーあ、何であんなのばっかモテんだかなー」
カズ君は溜息をつきながら、万歳の形で仰向けに寝転がった。
私はカズ君が言った言葉がとてつもなく嬉しくて何度もリピートさせた。
嫌われてないかもってだけなのに、心躍りたい気分になるのは最早病気かもしれない。

