「何で、お前が泣く」
棗君に言われて自分が泣いていることに気づき、慌てて涙を拭う。
馨君に咲綺ちゃんと比べられるような発言を言わせることになってしまったのは私のせいで、その言葉に棗君が傷ついた。
傷ついた棗君にかけてあげられる言葉も見つけられなくて、何もできない自分が嫌で、悔しかった。
泣くな。
棗君が泣くならまだしも、私が泣いてどうする。
「ごめんね・・・私、棗君を傷つけちゃったんだね・・・」
「んなことで泣くな、ボケ。別に傷ついてねぇよ」
頭を軽く叩かれた。
「咲綺はそういう奴だよ。同じことやっても咲綺は簡単に他の奴らを抜いていく」
急いで涙を拭って棗君に向き直ると「ひでぇ顔」と小さく笑った気がした。
そんな些細なことでも、今の私には安心する要素になる。
「最初にバンド作ろうってなった時、俺と馨ともう1人いたんだ。そいつはボーカルだったけど、咲綺が仲間に入ってすぐ辞めた。・・・敵わねぇって思ったんだよ」
棗君は壁に背中を預けて、最後の言葉と共に遠くの方に視線をやった。
「咲綺は無意識に人の努力とか夢とか潰してくんだ」
「咲綺ちゃんが悪いわけじゃ・・・」
「わかってる。咲綺はあれでいいんだ。人が人の上に立つのは当たり前。その過程で蹴落とされる奴も必ずいる。俺達が咲綺に付いて行けなきゃならねぇんだよ」
止まったはずの涙がまた、頬を滑り落ちて行った。
プライドの高い棗君にここまで言わせる咲綺ちゃんの眩しすぎる才能。
咲綺ちゃんが唄えばそこは咲綺ちゃんの独壇場。
そんな風に思えてしまう程、全てを飲み込む咲綺ちゃんの影響力は身を持って知っている。
棗君の大きな手が私の頭に置かれてぐしゃぐしゃに髪の毛を掻き回された。
「分かり切ってたことだから、今更傷つかねぇよ。俺が泣かしてるみてぇだから、いい加減泣き止め」
傷ついてないのも嘘だ。
傷ついていなかったら、馨君の言葉を出した時にあんな悲しそうな顔はしない。
分かり切ってたなら、どうして曲を作ったの?
棗君は私の肩が触れるくらいの近さに移動し、泣き止むまで傍にいてくれた。
こんな時でさえ、隣にいる棗君との距離の近さを感じて荒れている心臓が今は煩わしい。

