音楽準備室では個人練習がメインだったけど、多目的室に部室が移動してからは前半個人練習、後半は全員で音合わせ、という流れができていた。
個人練習時間、私はカッティングと新たに教えてもらったチョーキングの特訓中。
チョーキングっていうのは押さえている弦を上下させて音程も上下させるっていうテクニック。
手首の回転を使って弦を上げたり下げたりさせるっていう言葉で説明すれば簡単そうだけど、弦を上げすぎても上げ方が足りなくてもダメ。
棗君には体で覚えろ、と言われたので個人練習は基本的にチョーキングの練習ばかり。
他の3人も練習に励んでいたり、咲綺ちゃんの曲が間に合わなかった時のコピー曲選びを進めていることもある。
千尋さんの家でも練習はできているし、私にとってのギターの練習量は格段に増えているんだけど、たまに考えてしまうのはピアノがあればいいなーってこと。
ギターを使って曲を作れればいいんだけど、ピアノがあるならピアノの方が早く曲作りが進む。
皮肉なことだけど、ピアノが無い生活になった瞬間、ピアノをすごく必要としている私。
休憩中にもエアピアノを膝で作りながら頭の中にある譜面を指で追っていた。
「間抜けな顔だな。口開いてんぞ」
「んがっ」
斜め上を見ながら、指先では沁みついた鍵盤を叩いていると、口の中に紙みたいなものを放り込まれた。
慌てて口から出すと、端をくるっと捻じった包み紙の飴玉。
「ばーか」
悪戯っぽく、舌を出す棗君の姿に心奪われながらも辛うじて「開いてたからって入れないでよ」と抗議できた。
「最近トリップしすぎなんだよ。余計なこと考えんな、ギターに集中しろ」
「疲れには糖分摂取が効くよ」
馨君の笑顔に癒されながら、包み紙を外して飴玉を口に放り込む。
甘ったるい味がじんわり、と口の中に広がっていった。