ご飯を食べている間、私は千尋さんにもこれまでの経緯を話して聞かせた。

千尋さんは取材などの仕事もこなしているせいか、話を引き出すのが上手くて、私ばかりが話している気がする。


「私の妹、華って言うんですよ。華やかの華」

「綺麗な名前ね」

「そう思いますよね?それに引き替え私はふたばって葉っぱですよ?たった二つの葉」

小さい時こそ、私の方がピアノを上手く弾いていたが、年上なんだからそんなことは当たり前。

ここ数年は華の方が上手にピアノを弾いて、ピアノを弾くことも楽しんでいるようだった。

そういうことに気付いてから、私は自分の名前と妹の名前の差を悲観的に思うようになった。


妹の名前を漢字で紹介する時には華やかの華、と言う。

私の場合はひらがなだけど、想像するのは小学生の時に植物の観察日記で書くような緑の二つの葉。

早くお花が咲かないかなーって、双葉を眺めながらみんなが楽しみにしていたのを覚えている。


「実際にはその通りなんですけどね。妹の方が佐伯家にはふさわしいと思います」

「これかー、ふたばちゃんの十八番」

「十八番?」

「ネガティブループ」

悪戯っぽく笑う顔も馨君そっくりで、情報元がすぐにわかってしまった。



「こういう考え方はどうかしら?」

馨君と同じ笑顔をしながら両手で頬杖をついた。


「例えば、種がわからない双葉がそこにあったとする。何の花が咲くかはわからないわよね?」

千尋さんが床を示したので、つられて床に視線を合わせて頷いた。

「これからどんな花が咲くかはわからないし、水や肥料や日光によって咲き方も変わってくる」

また小学生の時を思い出す。

水をあげすぎてしまった子、逆に干からびさせてしまった子、ちゃんと世話をしていたのになかなか花が咲かなかった子。

同じ種を植えたのに、成長の仕方はそれぞれ違っていたことを思い出す。


「ふたばちゃんだって周りにいる人や環境によってどんな風になるかわからないわよ。それって私からしてみたらすごく羨ましい。双葉はいろんな可能性を秘めてると思うけどな。環境によって変化してしまうところは脆いけど、それも双葉と同じみたいじゃない?」


どうして、棗君が千尋さんと付き合っているのかわかるような気がした。

周りの人や環境によって私がどうなるか決まるとしたら、それはそれは立派な花を咲かせるんじゃないかと思えた。


「高校生って一番、将来が不透明な気がする。だから不安になるし、悩みもするけど、何にでもなれそうな気がする。だから、私、若い子のバンドって応援したくなっちゃうの」


千尋さんのはにかんだ笑顔は自分の好きなことを見つけ、充実した生活を送っていることが伝わってくるようだった。