しばらくして玄関口が騒がしくなり、千尋さんがドアを開けてひょっこり現れた。
「ずっとそんな行儀良く待ってたの?」
「どうしていいかわからなくて・・・」
整頓され過ぎた部屋を汚さないように、と思ったら座ったソファから動けなくなってしまった。
千尋さんは持っていた袋を冷蔵庫前で広げて片づけ始めた。
「遠慮なんていいのに。テレビとかつけなよ。その様子じゃご飯も食べてないんでしょ?お惣菜だけど買って来たから食べよ」
ランチョンマットを2人分ひいたその上に様々な種類のお惣菜をテーブルに置いていった。
さり気なくランチョンマットだとかコースターだとかが出て来ると、更に千尋さんの完璧具合を目の当たりにしたような気がした。
そして、家にも電話をしてくれた。
「夜分遅くにすみません。朝倉と申します。ふたばさんの友達の姉です。ふたばさんですが、しばらく私の家で預からせて頂きますので心配なさらないでください。ええ。いえいえ、そんな」
母の声までは聞こえないが、短い会話を終えた後、電話を切った。
「ご飯はちゃんと食べてるようですかって。ほら、心配しない親はいないでしょう?」
ほれ見ろと言わんばかりに、何故か自慢げに千尋さんは言った。
「何日かは置いてあげるけど、心の整理が付いたらちゃんと帰るのよ?ちゃんとお母さんと向かい合って話さないと」
「向かい合って・・・。そんなこと、できるんでしょうか」
正直、強く拒絶された言葉が心に傷を作っている。
母に話す前には時間をかけても分かり合えると思っていたが、そうじゃないかもしれない、と思ったら突然怖くなった。
「できるわよ。このまま逃げたら取り返しがつかなくなるわよ。決定的な確執が残ったり、縁が切れちゃうかもしれない。親子の縁ってそう簡単に切れるもんじゃないんだから自分から切りに行かないの。時間はかかるかもしれないけど、投げ出しちゃダメ」
わかった?と強く同意を求められたので頷くと、満足そうに笑って「よし、食べよう」と両手を合わせた。

