カノン




「宿のことなんだけど、今、家無理なんだ。両親が冷戦状態なんだわ」

「え、そうなの?平気?」

「平気平気。しょっちゅうだから。いい大人のくせにどっちも子供なんだよねー」

そういえば、私は一度も夫婦喧嘩を見たことが無い。

そもそも夫婦が揃っているところを見るのが稀なことだから、自然と喧嘩が減るのが当たり前なのかもしれない。

夫婦喧嘩ができる程の仲って羨ましいな、と思ったけど不謹慎なので発言は自粛しておく。

冷え切った夫婦間とここに来ての親子喧嘩。

これをきっかけに佐伯家が崩壊してしまったら・・・と不安が過ぎった。


「携帯鳴ってない?」

咲綺ちゃんが指差す鞄から確かにマナーモードにした振動音が聞こえてくる。

ディスプレイに表示されていたのは知らない番号で私は警戒しながら電話に出た。

『あ、もしもし、ふたばちゃん?』

「え?」

『あー、あたし。千尋』

「え!?千尋さん!?こ、こんにちは」

思いがけない名前に言葉が詰まり、条件反射で頭を下げると咲綺ちゃんがそれを見て笑いを堪えていた。

『うん、こんにちは。聞いたよ、棗から。今、家なき子なんだって?』

「はは、そうなんです・・・」

棗君、どんな説明したんだろう、と少し不安になった。

『それならさ、あたしのとこ来なよ。一人暮らしだから気兼ねしなくていいよ』

「ほんとですか!?」

『うん。学校終わったら棗とおいで。あたしはまだ仕事だから居ないと思うけど。棗が合い鍵持ってるから上がってて』

「なんか、すみません・・・」

『私は大丈夫よ。けど、家に一度連絡はしなさい?』

「え・・・?」

『娘が所在不明なんて心配しない母親なんていないわよ?事件に巻き込まれてるかもって思うかもしれないでしょ?言いにくいなら私が連絡してあげるから』

そんなこと一瞬も思えなくて、千尋さんの発言には虚を突かれた。

母の方から出ていけと言ったんだから清々してるだろう、くらいに思ってた。

心配してるのかな?お母さん。

佐伯家に相応しくないこんな娘でも。