カノン



笑窪の男子のおかげで音楽室は徐々に先程までのゆったりとした時間に戻って行く。


咲綺ちゃんはそれを見計らったようなタイミングで私の前で掌を上に向けて示した。。

「部活見学。佐伯ふたばちゃんでーす」

「昨日言ってた?良かったー!棗がカズ追い出しちゃったから廃部になるかと思った。あ、俺は朝倉馨。よろしくー」


手を取られ、強制的に握手をさせられた。慌てて手を振りほどくと、不思議そうに首を傾げる。


入部完了の握手ならそれは気が早い。


「ま、まだ入るって決めたわけじゃないの!」

「そうなの?でも入ってもらわないと困るんだ」

困るんだ、ってなんて勝手な!


にこにこ優しそうな顔をしているが、さっきのパンツ丸見せの豹変ぶりといい、吹奏楽部を一瞬で手名付けたことといい、要注意人物に違いない。


「そもそも、何でカズを追い出しちゃったの」

「カズが2ヶ月経ってもパワーコードしか弾けないからだって。最初から練習嫌いだったじゃん、カズ」

「って言うより棗の教え方が完全に合わなかったんだよ、カズには。あんな怒鳴らなくてもさー・・・」

2人の中でどんどん話が進み、置いてきぼりをくらうのが癪でようやく口を挟んだ。


「あのー、さっきから出てくる棗って人は?」

「聞こえてなかった?強制退部だ!って」

「聞こえてた」

「うん。中入ればわかるよ」


誘われた音楽室準備室は10畳程しかなく、壁には木製の棚が天井へ伸び、所狭しと管楽器や弦楽器などの小さめの楽器が置かれていた。


更に棚の下には棚には収納できない大きめの楽器が置かれていて、本来の部屋の広さよりも狭く感じられた。


更には中央の空きスペースに4脚の椅子が不規則に置かれていた。


密度の高さに若干引いたが、そんな狭さを気にも留めない男子が座ってギターを膝に乗せていた。


ギターをいじっているせいで顔は俯き加減。

表情はわからないが、黒い髪が蛍光灯の光を受けて頭頂部に綺麗な天使の輪を浮かび上がらせていた。


「棗。昨日言った、見学希望者だよー」

座っていた男子に向かって咲綺ちゃんは呼びかけ、私の手を引いた。