カノン




結局、熟睡はできないまま、閉めたカーテンの向こう側からぼんやりとした光が差し込んできていた。

熟睡もしていないと言うのに、未だ私の目は冴えていて、隣の部屋で物音がし始めたのでそっとドアを開けた。


「おはよう。早いね」

「いつもこんなもん。・・・どうした、その顔」

ソファに座っていた棗君は私の顔を見るなり、目を少しだけ見開いた。

「え、何!?」

思わず手を顔に当てたがそれで状態がわかるはずもなく、狼狽える。

「目の下、隈できてるから。寝てねぇの?」

「こ、これはっ・・・」

本当の事なんて言えない。

本当のことを言えば、自分も知らなかった変態部分が垣間見えてしまう。

「か、顔洗わせて!」

言葉を繋げることもできず、顔を覆って洗面所に逃げ込んだ。

鏡を見ると、確かに目の下に隈がくっきり。

「ブサイク・・・」

顔を覆って深く溜息をついた。

こんな顔で棗君と顔を合わせられないよ・・・。

洗面所に引きこもっていると、ずっとそうしていられるはずもなく、ドアをノックされた。

「おい。平気か」

労わってくれる棗君の言葉が身に染みて、泣きそうになる。

こうやって、たまに優しくされる度に棗君のことを好きになっちゃいけない、と急ブレーキをかけるのが辛い。

棗君に優しくされると嬉しいのはもちろんだけど、苦しくなる時がある。

無性に泣きたくなる。

「大丈夫。すぐ出るね」

「そうしてくれ。俺も使いたい」

・・・あ、そういうことですか。

馨君にはネガティブループに陥りやすいことを見抜かれたが、最早私のこの勘違いぶりはポジティブではないだろうか。

わーい、ネガティブ卒業、とか思っている間にも棗君が「早く出ろよ」と扉を叩くので籠城作戦は一瞬にして無駄な計画となった。

「良くわからない!!」

「は・・・?」

扉を開けた瞬間、私は心の叫びを言い放って棗君の顔も見ずに逃げた。



「朝ご飯、食べちゃいなさい」

お婆さんが朝食を乗せたお皿をテーブルに並べていたので、私も一緒に運ぶのを手伝った。


棗君を理解するにはやっぱりなかなか困難だし、恥ずかしい勘違いはするし、ブサイクだし、と朝から泣きたくなったが、お婆さんの柔らかい笑顔と温かそうな食事を見たら、まぁいっか、と思ってしまう単純な自分に救われた。