「根暗かと思ったらたまにキレたり、また根暗だったり。良くわかんねぇな、お前の性格」
微苦笑らしきものを浮かべた棗君からは苛立ちが消えたように見える。
棗君はソファに戻ってカップに入れた飲み物を飲み始めた。
それに少し安堵したからか、私も同じようなことを思ってたからなのか、口をついて出てしまう。
「私も棗君のこと良くわからない。すぐに怒ったりするのに、優しかったりするから、良くわからない」
棗君は咽ながら、カップを慌ててテーブルに置いていた。
「大丈夫?」
「・・っ、さっさと寝ろよ、お前は!」
「ね、寝ます!すみません!」
咽ているせいで棗君の顔が歪み、睨みに勢いが増していたせいで私は大慌てで棗君の部屋に引っ込んだ。
冷静になってみて、何で怒られたのかわからず、少し不服だったが疲れも感じていたせいで頭が考えることを拒絶した。
電気を消して、ベットに潜り込み、薄暗くなった天井を見上げた。
更に冷静に考えると、私はなかなか恥ずかしいことをさらりと言ってしまったのではないかと思えてきた。
私の気持ちがあんな言葉で勘付かれることはないとは思うけど、おかしなことは言わないようにしようと心に誓って目を閉じた。
・・・が、・・・眠れない。
目を瞑って右に左に寝返りを打ったり、タオルケットに頭から潜り込んでみたりするが目が冴えてしまって一向に寝付けない。
眠れない!!
その理由は自分でもわかる。
自分を包み込む匂いが棗君の物と思うと、正常でなんかいられないし、壁を隔てた向こうには棗君が眠ってると考えたら、心臓が荒れ狂って、息苦しいくらいだ。
変態かッ、私は!
起き上がって部屋を意味もなくウロウロしてみる。
こんなことで体力を消耗できるとは思えないが、黙っていると変態化した自分が様々なことを考えてしまうので、何もしていないよりはマシだ。
本でもあれば貸してもらって、眠くなるのを待てるかな、とも思ったが、本当にこの部屋には必要最低限しか無い。
家で何してるのかな。
やっぱり、ベース弾いたり雑誌読んだり?
音楽準備室と変わらないのかな。
お婆さんのお手伝いとかもするのかな?
棗君の私生活が想像できず、結局いつも見ている風景と重ね合わせることが精一杯。
だめだ、だめだ。どうしても棗君のことを考えてしまう。
首を振って棗君を頭から追い出そうとすると、ふと、視界に入った棗君の通学鞄。
何かを出した時に一緒に出てきてしまったのか、そこから紙の端が顔を出していた。
凝視すると、その紙には五線譜が書かれているように見えた。
ごめん棗君、と心の中で謝り、人差し指と親指で摘まんでゆっくり引き出した。
これって・・・。
1枚分だから正確には判断できないけど、多分これは棗君が中断してしまった曲だ。
他のページもあるのかもしれないけど、これ以上鞄を漁ることには良心が痛み、手を出すことができない。だけど、きっとあの曲に違いない。
いや、そうであってほしい。
曲を作るのをやめても捨てずに鞄に入れて持ち続けていた程に大事にしていた未完成の曲。
曲を作ることが嫌になったとか、面倒になったとか、そんな感情に流されるわけがない、そんなの棗君らしくない。
信じ難かった棗君への懸念が撤回されてほしかった。
気にしている様子を微塵も見せなかったけど、途中で辞めたことを後悔していたのかな。
私はそっと譜面を元に戻し、ベットに潜り込んで再び眠ることを試みた。

