「ふたばちゃんは家出でもしてきたのかい?」
「え、どうして」
「泊まりに来たにしては荷物が少な過ぎる。突発的に家を出て来たのかと思ってね」
しっかりと読まれていて、恥ずかしい。
「母と言い合いになってしまったんです」
「喧嘩して家出とはなかなか思い切ったことをするんだねぇ」
「本当、無計画で棗君にも怒られました」
怒りながらも、こうして私を泊めてくれるんだから頭が上がらない。
「親子だからと言って、油断しちゃあいけないよ?」
「どういう意味ですか?」
「自然と仲直りできるもんだと思って放ったらかしにしておくと、取り返しのつかないことになるからね。仲直りするなら早いうちがいい」
何だか、私の心を読まれているようだった。
どこかで私は、出て行けと言われたけど、いつかは許してくれるような根拠も無い自信を持っていた気がする。
母親が子供を捨てるなんて有り得ないだろうと。
「何か余計なこと話してないよな」
濡れた頭をタオルで拭きながら出て来た棗君は黒のTシャツにグレーのスウェットというリラックスした姿で現れた。
濡れているせいで棗君の黒々とした髪が一層艶だって見える。
「あんたも気が利かない子だねぇ」
「何だよ」
「ふたばちゃん、何にもお泊まりセットが無いじゃないの。一緒にコンビニ行ってらっしゃい」
「は!?」
「や、ほんと大丈夫です!」
ここで断っておかないと、後からの棗君の逆襲が怖すぎる。
「女の子に気を遣えない男はモテないよ」
いえ、結構モテてます。
必死にお婆さんを止めたけど、コンビニに行かないと引き下がってくれなさそうだったので「私が1人で」と言ったら、却下された。
「女の子が1人で出歩くなんて危険なことさせられないよ」
「わーかったから、待ってろ!」
棗君は頭をタオルでぐしゃぐしゃと掻き回して風呂場へと引っ込んで行った。
コンビニ行くの、逆に怖いんだけど。
そうは思っても、お婆さんの方は満足げに笑っていた。

