カノン




再び棗君に助けを求めるのも気が引けて、とりあえず歩いてみることにした。

前に家なき子がネットカフェを転々とするドキュメンタリーをテレビで見たのを思い出し、ネットカフェの文字を探そうと腰を上げた。

すると、目の前に30代くらいの爽やかそうなサラリーマンが笑みを浮かべて立っていた。

「大丈夫?」

「え?」

「すごく落ち込んでいるように見えたから」

「いえ、何でも・・・」

「何でもない、って顔には見えないんだけどな」

私の言葉を遮り、穏やかな口調で話す言葉が自然と心に沁み込んでいく。


「俺、気になっている子とデートだったんだけど、ドタキャンされちゃったんだ。予約でいっぱいのレストランだからキャンセルするのもったいないし、付き合ってくれたら嬉しいんだけど」

「え・・・」

「怪しいって思ってる?」

どう答えていいかわからず、曖昧に笑ったが、上手く笑えていなかったのか彼は「大丈夫」と笑った。


「君は悩んでるんだろ?俺も傷心なんだ。傷ついた者同士、慰め合う会ってどうかな」

にっこりと微笑んだ彼がさっき女の子にドタキャンされた、と言っていたがそれはただのデートのキャンセルではなく、フラれてしまったのかもしれない。


最近、恋愛を知り、片思いの切なさを実感したばかりの私にとって推し量れる感情かはわからないが、辛くて苦しかったんだろうな、と安易だが共感できた。


私が悩んでいる、というのも間違ってはいないし、慰め合う会っていうのも悪くは無いかも・・・と揺れ動いた。


最終的には人の良さそうな彼に従い、歩き出そうとすると、後ろから腕を引っ張られ、その勢いで後ろに体ごと持っていかれ、背中に何かぶつかった。


「待ってろって言っただろ。どこ行くんだよ」

「え・・・!?」

見上げると棗君が恐ろしい顔で睨み下ろしている。

背中から伝わる体温は棗君の体から発せられる物だと気付いて、状況を察した私の心臓は急に飛び跳ねた。

「なんだ、待ち合わせしてたんだ」

サラリーマンの彼が驚いたように首を傾げると棗君は私の肩を押して、横へ追いやると一歩前へ出た。

「バイトが終わるまで待ってろって言ったんですけどね」

「待ちくたびれちゃったんじゃない?ダメだよ。女の子を1人にして、危ないな」

「気を付けるよう良く言っておきますよ。あんたみたいな男がいるからな、って」

サラリーマンは気を悪くしたのか、眉間に皺を寄せ、棗君を睨み付けて立ち去って行った。