「棗、咲綺が何故かカズと乱闘してるよ」
騒ぎに気付き、音楽準備室から顔を出したのは咲綺ちゃんと戦っている男子の髪色が霞む程の金髪の男子。
何なの、軽音部って。ヤンキーの集まり?怖いんですけど、私。
「やらせとけよ。キレた咲綺は止めに入った奴でも殴るぞ」
部屋の中から聞こえてきた声は最初に怒鳴った声と似ている。
平らな薄っぺらい体だが、金髪の男子のその体によって中の人物は隠されている。
「まあ、そうだけど。カズも女の子に手は出さないと思うし。でも、皆さんドン引きですよ?」
椅子をなぎ倒し、机にぶつかって移動している2人を楽器を抱えて遠巻きに様子を見ている吹奏楽部。
部員の誰もが表情に恐怖の色を浮かべている。
「あの、止めさせてください。咲綺ちゃん怪我しちゃうかもしれないし・・・」
「俺が止めるの?」
「見た限り、男の人はあなたしかいないので、お願いします」
「うん、まぁそうなるよね。やれやれ・・・。俺が怪我したら君が責任とってよね?」
「え?」
笑窪が印象的な人懐こい笑顔を浮かべ、シャツの袖を捲りながら2人のもとに近づいて行く。
捲った袖から覗く腕は羨ましい程白く、細い。頼む人を間違えたかも、と後悔した。
「さーき!そのへんでやめとけ。そろそろ先生来ちゃうからさ」
「離してよ!このバカズを1発殴らなきゃ気が済まない!」
バカ+カズ=バカズ?口元が緩んだ吹奏楽部を数人発見。
細腕ながらも咲綺ちゃんの振り上げた手首をしっかりと掴み、咲綺ちゃんは殴る行為を封印されてしまったようだ。
「何でそんなキレてんの?カズが出て行ってから何分も経ってないでしょ」
「こいつが、ふたば吹っ飛ばして謝りもしないからだよ!」
咲綺ちゃんは激しく暴れて理由を早口で説明する。
「そっか。じゃあ、早く謝りなよカズ。女の子吹っ飛ばして平気な奴がいるなら、男としてクズだよ」
笑窪の男子がどんな表情をしたのか、私側からは見えなかったが、パンツ丸見せは顔を硬直させた。
頭を掻いた後、ポケットに手を突っ込み、私の前に立って、ぶっきらぼうに「悪かった」と頭を下げた。
パンツ丸見せは満足そうに笑っている笑窪の男子を睨み付け、音楽室を去って行った。
「はぁ・・・、全く、やめなよ、女の子が喧嘩なんて」
笑窪の男子は吹奏楽部の皆さんに笑顔を振り巻きながら謝罪した。
笑顔を向けられた女子達はほとんどが顔を赤らめていたので、どうやら気にしている人は誰もいないようだった。
「今は肉食女子なんて言葉が流行るくらいよ?女の子だって喧嘩する時代よ」
「そんな時代、俺が生きてるうちはご免だね」

